研究課題/領域番号 |
19K12303
|
研究機関 | 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター |
研究代表者 |
黒川 純一 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 情報管理部, 総括研究員 (70534262)
|
研究分担者 |
佐藤 啓市 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 情報管理部, 総括研究員 (00391110)
桐山 悠祐 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 大気圏研究部, 研究員 (30758628)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | アンモニア / 排出インベントリ / 大気質モデル |
研究実績の概要 |
研究3年目は、大気・土壌間のNH3交換プロセス(bi-directional Fluxモデル)を組み込んだ大気質モデリングシステムによるシミュレーション(Bidiモデル)と、ボトムアップ型アジア域排出インベントリREASを用いたシミュレーション(スタンダードモデル)の結果を比較し、NH3排出量、大気中濃度、還元態窒素沈着量の評価を行った。また、種類別窒素系化学肥料消費量、土壌pH分布、気候区分分布、家畜頭数及び糞尿量に関する最新のデータ・情報を収集・整備し、その結果に基づいてREASのNH3排出量推計システムの更新を行った。 化学肥料起源のNH3排出量について、REASとBidiモデルによる推計結果の比較を行った。総排出量については、東アジアのほぼ全域でBidiモデルによる推計値の方がREASよりも少なく、両者の差のREASに対する割合は、東南アジアで約79%、中国全域で約78%、特に差が大きい中国南東部では約91%となった。また、季節変動については、北東アジアでは類似の傾向を示したが、東南アジアでは両者の排出量のピーク時期がずれていた。これらの差の要因について、REAS、Bidiモデルの両面から検証中であり、本年度更新したNH3排出量推計システムを用いた結果との比較を進める予定である。大気中NH3濃度の空間分布及び総アンモニア(NH3+NH4+)の沈着量について、スタンダードモデルとBidiモデルによる結果の比較を行った。インドシナ半島付近のNH3濃度について、NH3総排出量は全体的にREASの方が大きい(差は年間総排出量で約11%)にも関わらず、Bidiモデルの結果の方がスタンダードモデルの結果よりも明確に高濃度(差は年平均濃度で約41%)となっていた。これらの差異の検証においては、Bidiモデル内の沈着プロセス、自然植生に関するパラメータにも着目する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、bi-directional Fluxモデルを用いたシミュレーション結果による解析を進め、NH3排出量の評価に加え、NH3大気中濃度、還元態窒素の沈着量について、REASを用いたシミュレーション結果との比較評価を行い、その成果を国内学会で発表した。また、農業起源NH3排出量推計に必要となる、化学肥料・家畜糞尿に関する最新のデータ・情報を収集・整備し、その結果に基づいてREASのNH3排出量推計システムの更新を行った。 研究計画では、観測データ、排出インベントリ、シミュレーション結果を組み合わせ、東アジアにフォーカスして還元態窒素の動態解析を行う予定であった。しかしながら、アジア域排出インベントリREASのNMVOCグリッドデータにおいて、修正にかなりの時間を要するエラーの存在が発覚したため、還元態窒素の動態解析用シミュレーションの実施については、研究期間を延長して仕切り直すこととした。やや遅れていると自己評価したのはこの理由による。
|
今後の研究の推進方策 |
当初最終年度に実施する計画となっていた、観測データ、排出インベントリ、シミュレーション結果を組み合わせて行う、東アジアにフォーカスしたNH3及び還元態窒素の動態解析を実施する。解析対象年は、使用可能な観測データ及びモデルシミュレーション用排出インベントリの状況を踏まえ、2005・2010・2015年とする。 シミュレーションについては、まず、使用するモデルの全体構成・設定について、昨年度まで実施してきた結果も踏まえて見直しを行う。その上で、2010年を対象に、1.アジア域排出インベントリREASv3.2.1を用いた標準モデルによる再シミュレーション、2.bi-directional Fluxモデルを用いた再シミュレーションを実施する。続いて、3.REASv3.2.1の化学・有機肥料起源及び家畜糞尿管理起源排出量をボトムアップ方式により改良したデータと標準モデルを用い、2005・2010・2015年を対象としたシミュレーションを実施する。なお、2010年のシミュレーションについては、NH3排出インベントリ以外の入力データは、気象場・側面境界条件等を含め、1・2・3それぞれ共通とする。観測データについては、衛星及び地表観測データそれぞれ解析対象年データを整備・評価する。シミュレーション結果をベースに、観測データ、排出インベントリを組み合わせ、NH3及び還元態窒素の空間分布、季節変動、経年変化、排出量・大気濃度・沈着量の関係及びその地域差に着目して解析を行う。 なお、令和4年度において、COVID-19などの問題により海外の現地調査や国際学会に出席することが困難となった場合は、インターネット会議システムの活用などにより対応する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:2020年度の場合と同じく、参加を想定していた国内学会・国際学会・国内研究打ち合わせ出張・海外現地調査出張が、2021年度もCOVID-19の影響により全てオンラインによる実施または中止となり、計画されていた国内旅費・外国旅費が使用されなかったため。 使用計画:2022年度における国内旅費・外国出張及び論文投稿に必要な経費として使用する予定。また、2022年度に実施予定のシミュレーションに必須となるクラスターマシン(計算マシン)の保守更新が必要であるため、その更新料として使用する予定。
|