研究課題/領域番号 |
19K12304
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
豊田 威信 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (80312411)
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研究分担者 |
木村 詞明 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (20374647)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 北極海 / 海氷力学過程 / リモートセンシング / レオロジー / パラメタリゼーション / 海氷漂流速度 / 数値海氷モデル / 氷厚分布 |
研究実績の概要 |
本年度は本格的なデータ解析に向けての準備を整えた。実施計画に基づき、1.衛星SAR画像から変形氷を見出すアルゴリズムの開発、2.北極海で得られた観測データの解析、3.変形過程の理解に向けて理論面の吟味に取り組んだ。 1.について、北極海への応用の前段階として、前年度にオホーツク海を対象にL-band SARデータを用いて作成したアルゴリズムに関する論文執筆に取り組んだ(公表済)。主な結論は、得られたアルゴリズムは現場検証観測と大よそ整合的であったものの、変形氷のみならず氷盤の大きさ分布にも有意に影響されることを初めて定量的に示したことなどである。これらは今後北極海を対象とした解析の土台とする予定である。 2.について、北極海観測期間中にヘリを用いて実施された表面形状観測とPALSAR-2画像との比較検証を行う計画であったが、現地ヘリで取得した観測データの処理に時間を要し、アルゴリズム開発には至らなかった。一方、人工衛星マイクロ波放射計AMSR-EおよびAMSR2の観測画像から北半球全体の海氷漂流速度を計算するアルゴリズムの改良を行い、データセットを整備した。 3.について、北極海の前準備としてオホーツク海の変形過程に関する解析を行った。巡視船を用いて実施してきた観測データから、この海域の海氷量の多寡を支配するのは変形氷の発達であることが示され、変形過程について2.で作成した漂流速度データを用いて吟味した。その結果、変形氷の発達は漂流速度の平均場というよりも散発的に生じること、シアー場も収束場と同様に顕著に寄与することなどが明らかになった。また、従来の方法を若干改良した海氷レオロジー理論の妥当性もある程度確かめることができた。 以上、新たな観測データの入手がやや遅れているものの、今後北極海における力学過程を吟味するための解析方法の基盤を整えることができて有意義な成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は北極海国際観測プロジェクト(2019年10月~2020年10月)で得られるデータを衛星データと組み合わせて解析することにより、数値海氷モデルにおける海氷の変形過程のパラメタリゼーションの手法を開発することを目的としている。本年度は当初、前年度の解析結果を論文にまとめ、研究協力者(Hutchings、Haas)と協力して観測船(Polarstern)周辺のブイデータと氷厚データを用いてさらに発展させる予定であった。しかしながら、当初予期しなかった感染症の影響により現場観測は大幅に変更された上、現地でヘリを用いて観測された氷厚データは観測後の処理に時間を要して活用するに至らなかった。そこでその代替としてオホーツク海を対象に、(1)衛星SARから変形氷を抽出する可能性と問題点を詳細に検討し、(2)氷況変動に海氷力学過程が果たす役割を過去の観測データから吟味することを目指した。 (1)について、PALSAR-2画像が有する二偏波(HH,HV)のシグナルを実際の氷況と比較した結果、HH偏波で作成した変形氷抽出アルゴリズムはある程度機能するものの、氷盤の大きさ分布にも有意に影響を受けること、ただしこの影響はHV偏波のほうが相対的に大きいため両偏波を併せて活用することにより利用可能であることなどが示され、これらの結果は論文として公表された。 (2)について、オホーツク海南部で過去25年間にわたって得られた氷況データの統計を取って衛星画像から得られた海氷密接度や海氷速度のデータセットと併せて解析した結果、この海域の海氷量の年々変動は気温よりも変形氷の発達の度合いに支配されており、研究代表者が若干改良した海氷レオロジーで比較的よく説明されることが示された。 以上の成果は北極海観測データの解析を行う上で重要な指針を与えるものであり、当初の予定がほぼ達成されたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度取得した北極海観測データの解析に本格的に取り組む。相補的にオホーツク海でも観測と解析を進めて本研究課題の着地点を見出したい。具体的には、1.北極海において衛星SAR画像から変形氷を抽出するアルゴリズムを作成して変形氷のマッピング、2.北極海における海氷漂流速度データを基に海氷レオロジーの理論的な検証、3.オホーツク海の解析結果も合わせて海氷変形過程のパラメタリゼーションの開発について以下の通り実施する予定である。 1.について、ヘリを用いて実施された広域の表面凹凸および氷厚観測データを研究協力者(Haas)から入手し、領域が重なるPALSAR-2画像と比較解析を行って変形氷を抽出するアルゴリズムを作成する。このアルゴリズムを北極海広域のPALSAR-2画像に適用することにより変形氷分布の時空間変動を明らかにする。2.について、昨年度に研究分担者(木村)が衛星マイクロ波画像を用いて作成した水平分解能60kmの北極海全体の日々の海氷漂流速度データセットを基にこのスケールにおける海氷レオロジーを理論面から検証する。次いで、研究協力者(Hutchings)と協力して観測船周辺のブイデータを解析してサブグリッドスケールの漂流速度分布を明らかにし、上に記した衛星データと比較解析することにより、従来の海氷レオロジーの妥当性を吟味する。3.について、まずは昨年度オホーツク海南部を対象として変形場のエネルギー論を軸に導出した海氷変形過程の特性に関する論文を執筆する。そして、1.と2.で得られた結果を基に、対象を北極海に拡張して塑性体を仮定した海氷レオロジーの妥当性を検証して変形過程のパラメタリゼーションの開発につなげる予定である。 なお、得られた解析結果について詳細な議論を行うために事情が許せば研究協力者(Haas)を訪問して議論を行い、研究成果は学会等で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は研究協力者との研究打ち合わせおよび国内外学会での成果発表のために45万円の旅費を割り当てていたが、感染症の影響で出張が叶わなかった。このため、旅費の一部を論文のオープンアクセス掲載料などに回したものの埋め合わせには至らなかった。今年度は感染症の状況が改善されて渡航が可能となるならば研究協力者との打ち合わせ旅費に用いる予定。出張が難しい状況が改善されなければ、解析補助として人件費・謝金に用いる予定である。
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