研究課題
本年度は、当初北極海における変形氷を抽出するアルゴリズムの開発と変形氷域のマッピング、それに変形過程のパラメタリゼーションの開発を目指していたが、現段階で利用可能な北極海プロジェクトの現場データは比較的限られるという現実に直面し、オホーツク海の観測データを最大限に活用して本研究課題に役立てる方針に軌道修正した。具体的には以下の課題に取り組んだ。(1)オホーツク海を対象に開発した変形氷抽出アルゴリズムの北極海への適応性を、北極海で取得された氷厚データとPALSAR-2画像を用いて比較検証した結果、両者に有意な相関は見出せず、SARシグナルの季節変化特性も顕わになり、アルゴリズムの改良が必要なことが分かった。(2)一方、オホーツク海ではアルゴリズムから推定された変形氷域の時間発展は、従来の海氷モデルで用いられてきた粘塑性海氷レオロジーに基づくパラメタリゼーションによる予測と整合的であることが示され、従来の手法の妥当性をある程度確認できた。(3)オホーツク海南部の変形氷の度合いの経年変動においてもこのパラメタリゼーションは整合的であることが示され、この海域の海氷体積量の年々変動には変形過程が熱力学的環境よりも重要な役割を果たすことも分かった。(4)さらに変形過程のスケール依存性を調べるためにオホーツク海氷域内の小さな氷盤(D<15m)の分布特性についてドローンを用いて計測し、D>0.8mの氷盤はD>15mの氷盤と同様にスケール不変性を持つことを見出した。以上の結果は、当初予定していた北極海氷を対象とした変形過程のパラメタリゼーションの開発には至らなかったものの、季節海氷域における観測データに基づいて従来用いられてきた海氷レオロジーの妥当性や力学的特性を新たに示せたことは意義ある成果であり、季節海氷域化が進む北極域で今後の適用が期待される。
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