研究課題/領域番号 |
19K12305
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
阿部 泰人 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (40627246)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 海面塩分 / 中規模渦 |
研究実績の概要 |
本研究は,近年入手が可能となった人工衛星搭載L-バンドマイクロ波センサーによる海面塩分データを用いて,海面塩分場に出現する中規模渦活動の検出・定量化とその影響を明らかにすることを目的としている.具体的には以下を実施する;①中規模渦活動の検出と全球海洋における定量的評価,②渦の回転流や移動による塩分輸送の見積もり,蒸発や降水など塩分変動をもたらす各種外力の中での相対的重要性の評価,③バリアレイヤーの形成に対する影響調査. 令和元年度は主に上記項目①を実施した.具体的にはまず,項目①を実施するのに必要なデータの整備を行った.本研究の主たるデータである海面塩分データや,中規模渦の追跡・解析に必要な海面高度データ,さらに中規模渦の位置データを全球域を対象として入手した.これらを用いて,北太平洋を試験海域として合成図解析を行った.中規模渦の重心を原点とした渦座標を導入し,全ての中規模渦に対して渦座標上での海面塩分マップを足し合わせた図を,時計回りの高気圧性渦,反時計回りの低気圧性渦各々で作成した.その結果,その循環流の向きに整合する形で,海面塩分場も回転模様を呈していることが分かり,一般化に成功した.この手法を,インド洋など他の海域にも展開したが,降水量が多い海域では中規模渦に関する信号がうまく抽出できなかった.例えば熱帯太平洋域では,降水量の多い熱帯収束帯が存在するため,中規模渦による輸送の影響がかき消されてしまうことが分かった.そのため,降水の影響を加味する計算コードを作成・改良した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では令和元年度は,「研究実績の概要」で記載した3つの項目のうち,項目①「中規模渦活動の検出と全球海洋における定量的評価」を完成させる予定でいたが,降水や蒸発の影響がある中で,中規模渦による塩分輸送の定量化およびその海域間の比較には,海域に応じた気象状況を考慮する必要性が生じたこともあり,まだその完成には至っていない.そのため,「当初の計画以上に進展している」「おおむね順調に進展している」とは言えない.その一方で,項目①の実施に必要な全球データの整備を行ったこと,項目①の全球展開に必要なベースとなる解析が完了したこと,海域間の特徴が見えてきたことから「遅れている」とも言えないため,上記のような自己評価に至った.
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度はまず項目①の「全球展開」を完成させることを目指す.「研究実績の概要」でも記載した通り,その際の留意点として降水がある.中規模渦による環状流がもたらす塩分輸送を見積もるのが項目①の目標であるが,降水量の多い熱帯収束帯など,海域によってはその信号がかき消されてしまう.海面塩分に対する降水量の影響評価次第では,海域間および季節間の比較の際に影響を及ぼす可能性があるので,慎重な検討が必要である. 次に項目②を実施する.項目①で定量化した塩分移流は,蒸発・降水,エントレインメントなどと共に,海面塩分を変動させる要素である.中規模渦による塩分移流の効果が,全要素において占める割合を,塩分収支解析を通して見積もり,全球にマッピングする.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では,令和元年度では研究費を旅費と消耗品の購入などに充てる予定であり,旅費は予定通りの執行を行った一方で,大容量のデータを保管する記憶媒体など消耗品の購入はまだ行っていない.令和2年度は,今年度入手した項目①のデータに加え,項目②で新たに必要となるデータや更新データの保管には必須となるため,この購入に充てる予定である.
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