琵琶湖では、微生物に分解されにくい難分解性有機物が増加、蓄積しており、生態系や水利用への悪影響が懸念されている。本研究では、微生物食物網で重要な位置を占める細菌群集が、琵琶湖において微生物ポンプ(MCP)を駆動することで、難分解性有機物を産生しているのではないかと考えた。難分解性有機物の生成機構を深く理解するためには、細菌生産量(総量)だけでは不十分であり、活発に増殖している細菌種とその季節的変動等を明らかにしなければならない。また、増殖活性のみならず、環境条件(水温など)が異なると、たとえ同じ細菌種であっても細胞のサイズや形状、元素組成が異なることが知られており、これらの情報も併せて取得しなければ、物質循環の真の究明にはつながらない。そこで、本研究では、水圏における細菌群集の増殖特性をより精密に解明することを目的に、シングルセル解析を駆使した新たな方法論を確立し、琵琶湖の物質循環に果たす細菌群集の役割を解明することとした。 ヌクレオシドアナログのEdUを用いたシングルセル細菌増殖解析を行うとともに、有機元素組成分析を実施して、琵琶湖における細菌群集の増殖活性を評価した。その結果、琵琶湖細菌群集の比増殖速度は、夏季は3.2×10-2 [1/day]、冬季は2.5×10-2 [1/day]で、炭素現存量は夏季は9.0 [μgC/L]、冬季は6.3 [μgC/L]と求まった。これらの値を用いて年間の細菌二次生産量は、79 [μgC/L/year]と推定された。一次生産量に対してどれだけの有機炭素が微生物ループに流れ込んでいるかを試算した結果、本研究では一次生産から微生物ループに流れ込む炭素量は夏季は1.0%、冬季は0.66 %と推定され、既報と比べてかなり小さい値であった。今後の課題は、パラメーター(細菌増殖活性の温度依存性など)の精緻化と炭素以外の生元素の評価である。
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