研究課題/領域番号 |
19K12309
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
近藤 能子 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (40722492)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 鉄 / 二価鉄 / 光化学反応 / 東シナ海 / 微量金属元素 |
研究実績の概要 |
微量金属元素の鉄は海洋一次生産を担う植物プランクトンの生長に必須であるため、植物プランクトンによる鉄利用機構の解明が求められている。海水中の溶存鉄は、溶存有機物と錯形成した有機錯体鉄、無機イオン、水酸化鉄およびそれが凝集した無機コロイド鉄など様々な形態で存在するが、この中でも植物プランクトンにとって細胞内に取り込みやすい形態の鉄と考えられている二価鉄(Fe(II))の海水中の挙動には不明な点が多い。本研究は、水温・光量など海洋環境の違いがFe(II)の挙動を制御し、植物プランクトンによる鉄の生物利用能に影響を与えているという仮説を海洋観測および室内実験から検証することを目指している。 本年度は、黒潮・台湾暖流といった表面海流や大陸棚の影響により溶存鉄濃度やその化学形態が変化することが予想される東シナ海陸棚斜面周辺域をフィールドとして、現場海洋における鉄の化学的存在形態を把握すること、特に生物利用能の高いFe(II)の挙動やその半減期と海洋環境特性の関係を理解するための調査を実施した。その結果、東シナ海陸棚斜面周辺域における現場のFe(II)濃度は0.006 - 0.150 nMの範囲で分布し、Fe(II)濃度は日中の表層で極大を示した。有光層内では溶存鉄濃度に対して最大21%がFe(II)として存在しており、植物プランクトン細胞に取り込まれやすい形態であるFe(II)のみでも高栄養塩低クロロフィル海域など外洋域表層の全溶存鉄の濃度レベルに比べ高くなるケースも見られた。PARとFe(II)の関係から2019年7月の東シナ海陸棚斜面周辺域表層では、Fe(II)濃度の光強度の上昇に伴う増加が認められたこと、加えて表層水のFe(II)半減期が亜熱帯外洋域に比べて長めであった可能性が示され、同海域では植物プランクトンなど光合成生物にとって溶存鉄の生物利用能は高いことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度研究では、長崎大学水産学部附属練習船長崎丸による海洋観測を実施し、現場の溶存鉄およびFe(II)分布を明らかにした。その上で、持ち帰った海水試料を使って実施したFe(II)消失速度実験から東シナ海およびその周辺海域における鉄の生物利用能に関する特徴を明らかにすることができた。海洋観測においては現場光量やその変化、またクロロフィルa濃度など、鉄の化学形態に関わりうる海洋環境パラメーターも採取できたことから、次年度以降の擬似太陽光による室内実験を行う上での準備が整った状況と言える。
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今後の研究の推進方策 |
過去の研究航海で採取して凍結保存しておいた北太平洋亜寒帯域など他海域の海水試料を用いて、ソーラーシミュレーターによる擬似太陽光を用いた室内光照射実験を行い、各試料中のFe(II)濃度変化からその生成/消失速度を求め、2019年度に調べた東シナ海の海水中の鉄の生物利用能との違いについて考察する。また、天然海水中では、海水中に存在する鉄と錯形成する有機物(有機配位子)の種類や海水中のpH変化も植物プランクトンによる鉄の取込み速度に影響すると考えられるため、本研究では、これら有機配位子の種類やpHの違いが光化学反応によるFe(II)生成速度へ与える影響を評価する実験を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験作業の繁忙化から次年度に実験器具の洗浄作業などを行う補佐員を雇う必要が生じたため、未使用額をその経費に充てることにした。
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