研究課題
鉄は窒素やリンなどの主要栄養素と同様に海洋一次生産を支える植物プランクトンの生長に不可欠であるため、海洋鉄循環の解明は海洋科学における重要課題である。特に海水中の溶存鉄濃度は極めて少なく、さらには海域や深度など環境によってその化学形態が複雑に変化することから、植物プランクトンによる鉄利用機構については不明な点が多い。本研究では、海水中の鉄の化学形態を軸に、その溶解度や生物による取り込み過程で鍵となる形態である二価鉄(Fe(II))に焦点をあて、その生成・消失機構を明らかにすることを目的としている。北太平洋や東シナ海、有明海などをフィールドとし、現場のFe(II)を明らかにすることに加え、水温・光量・溶存有機物など海洋環境の違いがFe(II)の挙動を制御しているという仮説を検証した。本年度は、栄養塩濃度が大きく変化する北西太平洋の赤道域から中緯度の親潮・黒潮移行域にかけてその表層から採取された海水試料に対し、擬似太陽光照射によるFe(II)量の海域比較を行った。その結果、水柱積算クロロフィルa濃度の高い中緯度移行域において光照射による顕著なFe(II)生成が確認された。一方で、南部の亜熱帯域では反応性は乏しかった。よって、光化学反応性から推察された鉄の生物利用能は移行域で高くなる事が示された。この傾向は水温やpHの変化とも対応していたが、前年度実施した亜寒帯のデータと統合して比較した場合には相関関係は見られなくなった。このことから、北西太平洋の鉄の光化学反応性は単純に水温やpHだけでは説明できず、現場の鉄と錯体を形成する有機物(有機配位子)などを考慮する必要がある。Fe(II)は植物プランクトンにとって取り込みやすい形態の鉄であるため、移行域で見られた鉄の高い光化学反応性は現場海域の生物生産性にも影響を与えていることが示唆された。
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