研究課題/領域番号 |
19K12310
|
研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
安元 純 琉球大学, 農学部, 助教 (70432870)
|
研究分担者 |
安元 剛 北里大学, 海洋生命科学部, 講師 (00448200)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 島嶼地域 / 水循環 / リン酸塩 / サンゴの石灰化機構 / 地下水 / 蓄積型リン酸塩 / 石灰岩地域 |
研究実績の概要 |
陸域負荷がサンゴ礁生態系に及ぼす影響が懸念されているが,科学的な検証は十分になされておらず,その対策も遅れている。我々は,栄養塩がサンゴの生理機能に及ぼす影響を検証し,オルトリン(PO4-P)がCaCO3で構成されるサンゴ骨格に素早く吸着し,骨格形成を阻害することを報告した。熱帯亜熱帯域の底質が主に石灰質で構成されることを考慮すると,陸域由来のリン酸塩は沿岸域の底質に蓄積している(蓄積型栄養塩)と推察できる。本研究では沖縄県の沿岸域で採取した底質の蓄積型栄養塩を調べるとともにサンゴの骨格形成に及ぼす影響を検証した。沖縄県の沿岸各地で採取した石灰質の底質を乾燥後に粒径を揃えた。飼育実験には,沖縄島沿岸域4地点(瀬底,白水,大度,玻名城)の底質10 gを用い,シャーレに敷き詰め,海水 25 mLで満たし,ユビミドリイシAcropora digitiferaの稚ポリプを室温(28度)で海水や底質を交換しながら40日間飼育してサンゴへの影響を調べた。その結果,蓄積型栄養塩を比較したところ表層海水のPO4-Pが高くない地点でも底質からは高濃度のPO4-Pが溶出された。このPO4-Pは底質へ吸着し蓄積したものと考えられた。沖縄島南部の具志頭海岸の底質からは66 umol/Lと高い値が検出された。稚ポリプを底質共存かで飼育すると,リーフ内にサンゴが生息する瀬底島や玻名城海岸の底質を使用した場合,サンゴ骨格形成はやや阻害されるに留まったが,沖縄島南部の白水川河口の底質を使用した場合,底質からのPO4-Pの溶出濃度は15 umol/Lと高濃度では,骨格形成は著しく阻害された。この実験から,蓄積型栄養塩は稚サンゴの骨格形成を顕著に妨げることが実証された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究により、陸から海に流れ込んできたリン酸塩は沿岸域の砂に徐々に吸着され、高濃度で蓄積されていることが明らかになった。また、砂に蓄積したリン酸塩は飼育海水中にも溶出するためサンゴなどの底生生物に影響を及ぼしていると考えられる。本研究は、科学的に証明が難しかった栄養塩によるサンゴへの直接的な悪影響の一端を証明できたという点で意義がある研究で、サンゴ礁保全に大きく貢献することが期待できる。 この成果は2021年3月17日に英国王立協会が刊行する “Royal Society Open Science”に発表し、琉球新報、沖縄タイムス、日刊工業新聞社などに掲載された。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では、砂に蓄積したリン酸塩を蓄積型栄養塩と定義し、本格的な調査を始めている。サンゴ礁によって形成された島では、陸域からの栄養塩は地下水を経由して沿岸海域に流出する。地下水が何処に海底湧水として海域に流出しているかは探すのが困難だが、沿岸域の蓄積型栄養塩を調べることによって、陸域負荷の大きい場所を特定することが可能になると考えられる。本研究成果を基に、サンゴ礁海域における環境基準値を設定すると共に、現在構築している3次元水循環モデルを用いて、サンゴ礁生態系を維持するためには陸域負荷をどの程度まで削減する必要があるのか検討する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響で予定していた出張をキャンセルしたため次年度使用が生じた経費を、リン酸塩の分析のための標準試薬の購入に充てる。
|