最終年度は、昨年度と同様に琵琶湖における植物プランクトン群集の新たな動態像を探ることを目的として、係留・船舶・衛星観測を実施した。春期(4月~6月)におけるクロロフィルa濃度(Chl.a)は、1.8~13(平均6.8)μg/Lの比較的高濃度の範囲にあり、大型(20 μm以上)植物プランクトンが優占した。この時期は、循環期に深層から表層に回帰した栄養塩と代掻きに伴う栄養塩供給を利用して、大型植物プランクトンの春季ブルームが発生したと考えられる。つづく、夏期(7月~9月)には、Chl.aは大きく減少し、2.1~3.3(平均2.9)μg/Lの範囲にあった。このような減少は、夏季の成層強化に伴い、深層から表層への栄養塩供給が減少したことが主な要因であると考えられる。秋期(10~12月)におけるChl.aは3.1~4.7(平均3.9)μg/Lの範囲にあり、小型・中型(20 μm以下)植物プランクトンが優占した。例年、この時期は大型植物プランクトンの秋季ブルームが発生するが、本年はブルームを確認できなかった。本年夏季から秋季は、琵琶湖に接近した台風がなく、また、降水量が例年と比較して非常に少なかった。これらの気象が要因となり、本年秋季の表層は、湖内外からの栄養塩供給がほぼ絶たれた貧栄養状態であったと推察される。このような環境が秋季のブルームを消失させたと考えられる。 3年間の観測により、琵琶湖における植物プランクトン群集動態(現存量、種組成、一次生産速度)は気象によって大きく影響されることが明らかとなった。特に、温暖化に伴う成層強化は深層から表層への栄養塩供給を減少させ、秋季ブルームを小規模化させることが明らかとなった。また、成層強化に降水量低下が伴うと、湖内外からの栄養塩供給が絶たれるため、植物プランクトンサイズの小型化と秋季ブルームの消失につながることも本研究により示された。
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