研究課題/領域番号 |
19K12315
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研究機関 | 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター |
研究代表者 |
佐瀬 裕之 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 生態影響研究部, 部長 (20450801)
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研究分担者 |
諸橋 将雪 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 生態影響研究部, 研究員 (40761606)
松田 和秀 東京農工大学, 農学部, 教授 (50409520)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アンモニウムの吸収 / 葉面の濡れ性 / アンモニアの放出 / 制御因子 |
研究実績の概要 |
アジア大気汚染研究センターが管理する加治川(KJK)集水域試験地(新潟県新発田市)及び東京農工大学フィールドミュージアム多摩丘陵(FMT)試験地(東京都八王子市)内に、調査プロットを設定し、集中調査を開始した。KJKでは、スギ林内において林内雨(TF)・林外雨(RF)の集中調査を7月から10月まで1週間から10日間隔で実施し、アンモニウムイオンや硝酸イオン等、反応性窒素(Nr)の樹冠における吸収・溶出の観測を実施した。また、その制御する要因を特定するため、KJKの主要な樹種であるスギの葉を定期的に採取した。FMTではタワーによるアンモニアのフラックス観測を実施し、樹冠におけるアンモニアの吸収・放出が示唆された。その制御要因を特定するため、同様に、タワー周辺の主要な樹種であるコナラの葉を、また、KJKとの比較のために近傍でスギ葉も採取した。樹木葉については、葉面の濡れ性と葉内のNr濃度等の測定を行った。 KJKにおけるTF・RFの観測では、硫酸イオンではTFによる沈着量がRFのそれより多く乾性沈着の寄与が確認されたが、アンモニウムイオンや硝酸イオンではTFによる沈着量がRFのそれより少なく樹冠での吸収が示唆された。スギ葉面の濡れ性と同時期の正味の林内雨による沈着量の間には負の相関関係が見られ、濡れ性が大きいほど正味の沈着量が少なくなり、樹冠による吸収の増大を示唆した。先行研究(Sase et al. 2008, Environmental Pollution)が示唆したように、葉面の濡れ性が樹冠における吸収の制御に重要な因子であることが再確認された。一方で、吸収・放出過程に大きく影響するとされる葉内のアポプラスト液中のアンモニウムはかなり低濃度であり、FMTでの放出過程はまだ説明できていない。今後、葉内Nrの抽出・分析方法をさらに精査する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
降水と葉内の液相間でのイオン交換によって生じると考えられる、アンモニウムイオンや硝酸イオン等のNrの溶出・吸収過程については、KJKでの先行研究(Sase et al. 2008)や窒素同位体を用いた欧州樹種の室内実験(Adriaenssens et al. 2010, Water, Air and Soil Pollution)により、葉面の濡れ性との関連性が示唆されてきたが、先行研究から10年以上が経過し、窒素飽和が進んだことが指摘されたKJK(Nakagawa et al. 2018, Biogeosciences)において、今回のサンプリング頻度を高くした観測によっても同様の傾向が確認され、葉面の濡れ性がNrの溶出・吸収過程の制御因子の一つであることが改めて確認された。 アンモニアの吸収・放出の制御因子の一つとされるアポプラスト液の抽出・分析においては、試行的な測定に加え、関連研究を実施している研究者との意見交換を進めた結果、改善点の洗い出しが完了し、今後の展望が開けた。
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今後の研究の推進方策 |
ガス状アンモニアの吸収・放出は、植物体内で細胞膜の外側を満たすアポプラスト液中のアンモニウム/アンモニア濃度とpHによってその補償点が規定されると考えられており、アポプラスト液の抽出と分析が重要となるが、樹木葉での実施例が少なく、手法の完全な確立には至っていない。試行的な抽出・分析を実施しつつ、関連研究を実施している研究者と積極的な意見交換をした結果、改善点の洗い出しがほぼ出来たため、今後、より信頼性の高いデータが得られると期待される。また、抽出作業が煩雑なアポプラスト液でなく、近年指標としての有効性が指摘され始めた凍結新鮮葉からのNr抽出も試みる予定である。 これらから得られる樹木葉のNr濃度に関わる指標と、FMTのタワーフラックス観測結果を比較する予定である。また、KJKにおける夏季から秋季の林内雨・林外雨の観測を継続するとともに、林内のガス状アンモニアの濃度をパッシブサンプラーを用いて測定する。これらのデータを元に、大気中のアンモニア濃度、降水中のアンモニウム濃度、葉内液相中のアンモニウム/アンモニア濃度、さらに上述した液相でのイオン交換に関わる葉面濡れ性等を考慮し、アンモニア/アンモニウム等の吸収・放出に関わるメカニズムを明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
出席を予定していた第131回日本森林学会大会が、新型コロナ感染の流行防止対策のため中止となり、旅費の支出がなくなった。また、年度内に参加登録費用を支出する予定であった2020年酸性雨国際会議ACID RAIN 2020が、同様に新型コロナ感染の流行防止対策のため1年程度延期されることになった。 前者については、次年度大会への参加で支出する予定である。また後者については、2021年度内に開催される見込みであることから、次年度もしくは最終年度に支出されることが見込まれる。
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