研究課題/領域番号 |
19K12316
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研究機関 | 滋賀県立琵琶湖博物館 |
研究代表者 |
林 竜馬 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 主任学芸員 (60636067)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 環境変動 / 古生態 / 森林動態 / 花粉分析 / 因果推論 / モンスーン変動 / 海洋変動 / 東シナ海 |
研究実績の概要 |
過去の氷期-間氷期変動においては海流やモンスーンの状態によって、日本の植生の温暖化に対する応答が異なっていたことが明らかになってきた。そのため、将来の温暖化による植生影響を予測するためには、植生と大気・海洋システムとの因果関係の把握が必要である。本研究では、海流とモンスーン変動を鋭敏に記録している東シナ海で採取された海洋コアを用いて、40万年間の花粉分析を実施し、過去5回の氷期-間氷期変動における植生の温暖化応答を解明する。さらに、花粉分析結果と海流やモンスーン変動を記録している古環境プロキシの時系列データについて、近年生態学で提唱された新手法 Convergent Cross Mapping (CCM)を応用した因果解析を行い、植生と海流・モンスーンとの因果関係の推定を試みる。2020年度には、1)国際深海科学掘削計画(IODP)Exp.346で採取された40万年間におよぶ東シナ海U1429コアについて、堆積物試料の分析に着手した。また、2)植生と海流・モンスーン変動との因果関係を解明するため、鳥取沖で採取されたIODP Exp. 346 U1427コアの花粉分析と日本海変動プロキシデータの比較研究を進め、投稿論文をまとめた。さらに、3)海底コア中の花粉化石が反映している植生の範囲を推定するための基礎資料として、海洋コアと対比が可能な琵琶湖をはじめとした湖沼堆積物の採取と分析を行った。さらに、寒冷期に優占する亜高山帯針葉樹の森林の花粉生産量の調査を八ヶ岳周辺、北海道において実施し、日本における主要な森林構成樹種の花粉生産量の集成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度には、1)国際深海科学掘削計画(IODP)Exp.346で採取された40万年間におよぶ東シナ海U1429コアについて、花粉分析処理を進めた。分析の進捗はやや遅れているため、2021年度に集中的に分析を実施する必要がある。また、2)連携研究者と協力して、鳥取沖で採取されたIODP Exp. 346 U1427コアの花粉分析成果を利用した日本海変動プロキシデータとの比較研究を推進した。その結果、氷期から間氷期にかけての温暖化時期において、日本海環境や対馬暖流による日本の森林生態系への影響について、同一の海洋コアを用いた古植生-古海洋プロキシデータ間の直接対比から解明することができた。寒冷期な氷期においては、日本海環境が外海から孤立化することにより極端な淡水化が発生し、そのことが陸上環境の乾燥化を促進して亜寒帯性針葉樹林の優占につながった。また、融氷期においては日本海に少量の対馬暖流が流入するのに合わせて、亜寒帯性針葉樹林から落葉広葉樹林への急激な植生変化がおきたことが明らかになった。この研究成果は、植生と海流・モンスーン変動との因果関係を解明するための重要なデータセットとなり、この成果は国際誌への投稿論文としてまとめた。さらに、3)海底コア中の花粉化石が反映している植生の範囲と定量的な植生量復元のための基礎研究を進めた。海洋コアと対比が可能であり、周辺の森林生態系を強く反映していると考えられる湖沼堆積物の採取と分析を実施した。本年度には、琵琶湖南湖堆積物および八ヶ岳白駒池堆積物の花粉分析を実施し、現在の花粉組成と周辺植生との関係性を明らかにした。また、琵琶湖周辺と八ヶ岳周辺、北海道足寄周辺の各地域において、寒冷期における森林構成種を中心に森林内での花粉生産量の調査を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度には、IODP Exp.346で採取された東シナ海 U1427コアについての花粉分析を中心的に進めていく。分析については、約40万年間について、5000年間隔で花粉分析を実施し、同一の海洋コアによる古海洋プロキシデータとの直接対比を行う。特に、温暖期の層準については、温暖化時期の植生変化について時間分解能の高い復元を試みる。また、鳥取沖で採取されたIODP Exp. 346 U1427コアの花粉分析と日本海変動プロキシデータとの比較研究をさらに推進し、植生と海流・モンスーン変動との因果推論手法の適用を検討する。さらに、海底コア中の花粉化石が反映している植生の範囲を明確にするために、海洋コアと対比が可能な湖沼堆積物の採取と分析、既往の研究成果との比較を進めていく。また、花粉化石が反映している定量的な植生量復元のための基礎資料として、森林内での花粉生産量の調査を継続して実施し、日本における主要な森林構成樹種の花粉生産量の集成と定量的な復元手法の応用に取り組む計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果について、国際学会で公表を行う予定としていたが、コロナウィルス感染症対策の関係で学会が延期となり、そのための旅費について次年度に繰り越しを行う必要が生じたため。
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