研究課題/領域番号 |
19K12320
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
秋山 秋梅 (張秋梅) 京都大学, 理学研究科, 准教授 (00260604)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 酸化ストレス / 放射線 / 過酸化水素 / 線虫C.elegans / 塩基除去修復 / 培養細胞 |
研究実績の概要 |
放射線や活性酸素(ROS)から細胞を守ることは、生物の生死にとって極めて重要である。電離放射線は直接細胞成分に損傷を与える作用と、大量に生成するROSによって細胞に強い酸化反応を引き起こす作用がある。細胞には活性酸素の消去、酸化された分子の還元、損傷DNAの修復などの防御機構が備わっている。本研究は、(1)酸化DNA損傷を修復する酵素の同定と機能の解析、線虫(C. elegans)個体における胚発生・生殖・寿命・運動・組織形成などへの関与を解明する。(2)ヒト細胞における酸化防御酵素の放射線応答・酸化ストレス防御における役割の解明を目的とする。 令和元年度は、(1)DNA修復酵素の機能解析において線虫における運動指標を用い、環境ストレスである紫外線UVBとUVC、対照として青LEDと白LEDなどの光に対する感受性を解析した。その結果DNA修復酵素EXO-3が照射後の運動回復に関わる重要な因子であることを見出した。(2)線虫の塩基除去修復酵素UNG-1は、胚時期に受けた損傷がその後の寿命や生殖などに重要な役割を担っていることを見出した。(3)本研究で酸化ストレス防御因子OXR1が放射線に応答し、ゲノム安定性に関与することを明らかにした。令和元年度はOXR1過剰発現細胞を用いてさらにその現象を確かめ、成果を国際会議と国際雑誌に発表した。さらに、OXR1が酸化ストレスのみならずDNA損傷に応答することを重粒子線・MMSを用いた研究で明らかにした。(4) CRISPR-CAS9方法を用いて細胞の酸化還元を調節する酵素、グルタレドキシンGRX1を欠損するヒト培養細胞株を作製することに成功し、その酸化ストレスに対する感受性を調べ、酸化タンパク質・ミトコンドリアでのROS産生との関連性を明らかにした。 以上それぞれの成果を複数の学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸化DNA修復酵素の機能解析、個体における影響については、塩基除去修復酵素EXO-3を欠損する線虫個体の機能変化からこのタンパク質が紫外線誘発運動低下の抑制やその回復に重要な役割を果たしていることを見出した。さらに、ROSを産生するUVBと主にチミン二量体を作るUVCとの比較実験、そしてLED光を用いての実験を検証した。得られた研究成果は日本放射線影響学会及び日本遺伝学会で発表した。この課題は計画どおりに進展している。また、胚時期に受けたDNA損傷が成虫になっても影響を与えること、UNG-1が個体の防護の役割を果たし続けるという重要な事実を発見した。これらの研究成果は日本遺伝学会と放射線影響学会で発表した。この課題は当初の計画以上に進展している。 ヒト細胞における酸化防御酵素の放射線応答・酸化ストレス防御の役割の解明について、酸化ストレス防御タンパク質OXR1の発現抑制細胞株と過剰発現細胞株を用い、OXR1は放射線誘導ゲノム不安定の防御に細胞周期制御と酸化ストレス防御両方面から働いていることをより繊細な実験により確認できた。また、DNA損傷剤への応答も見出し、日本放射線影響学会で公表した。その成果の一部は国際雑誌Journal of Radiation Researchに発表した。また、酸化ストレス防御では酸化タンパク質の還元も重要な機構である。その因子の一つとしてGRX-1が存在しているが、その放射線や酸化ストレスへの防御効果とその機構、細胞内での役割はまだ明らかではない。そこでCRISPR-CAS9方法を用いてGRX-1欠損HeLaS3細胞を作成し、放射線やH2O2、熱に対して高感受性であることを発見した。これらの研究成果は日本放射線影響学会、日本遺伝学会、宇宙生物科学会、日本分子生物学会で発表した。当初の予定どおりに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は引き続き下記の研究を行う。 (1)酸化DNA修復酵素、線虫EXO-3酵素の欠損と紫外線誘発運動低下との回復への役割について、さらに細胞死や筋肉損傷回復などとの関連において解明する。(2)DNA修復の個体への影響について、線虫のung-1欠損株と酸化損傷を修復するnth-1との二重欠損株を用いて酸化ストレス処理への応答を検討する。また、胚発生、成長、組織形成などへの関わりを検討する。(3)線虫からDNA修復因子の同定と機能解明、線虫の抽出液から新規酵素活性の確認と精製を進めていく。酸化ヌクレオチドと成虫時期の個体死との関係を検討する。(4)ヒト細胞における酸化防御酵素の放射線応答・酸化ストレス防御の役割の解明について、OXR1の放射線DNA損傷への応答機構と細胞周期調節因子,生存率などとの関連を解析する。細胞質に存在している酸化タンパク質を還元する酵素GRX-1欠損細胞の酸化ストレス防御機構についてさらに解析を行い、論文公表に向けて努力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた実験用機材・実験材料の購入は、他の部署・大学・共同研究者と機器・試薬を共同利用したこと、また新型コロナウイルス感染拡大の影響で予定した機器の購入の期間内の納品が出来なかったことにより、費用の一部が削減され次年度への使用額が生じた。 次年度使用額については、研究テーマの展開と新たに加えた新指標の解析実験系(培地、血清、研究試薬の購入など)に使用する。さらに、共同研究者間での打ち合わせ、国内外の研究発表に使用する。得られた成果を論文に投稿し、その校正、掲載料に使用する。
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