コケ植物の一種であるヒメツリガネゴケはガンマ線を200Gy照射しても生存率が低下せず、優れたゲノム維持機構を持つことが予想される。放射線照射によって生じるDNA2本鎖切断(DSB)は、DNA損傷の中でも正確な修復が難しく、生存率に最も寄与することが知られている。我々はヒメツリガネゴケの主要なDNA修復経路である相同組換え(HR)、非相同末端結合(c-NHEJ)、オルタナティブ末端結合(alt-EJ)に関わるRAD51B、LIG4、POLQ遺伝子に着目し、ゲノム編集技術でこれらのノックアウト(KO)株を作成した。得られたノックアウト株に対してガンマ線を照射し、パルスフィールド電気泳動法でDSB修復能力を計測した。その結果、rad51b、lig4およびpolq株では野生株と比べてDSB修復が同等に遅延すること、lig4およびpolq株では最終的に全てのDSBが修復されるが、rad51b株では約10%のDSBが修復されずに残存することを発見した。このことから、1)ヒメツリガネゴケにおいて生じたDSBはHR、C-NHEJとAlt-EJが同等の割合で修復すること、2)いずれかの経路が破綻してもDSBの9割は他の経路のバックアップで修復されるが、残りの1割はHRでないと修復できないこと、3)HRでしか修復できないDSBは複製フォークの崩壊等で生じたシングルエンドDSBの可能性があること、などが示唆された。
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