研究課題/領域番号 |
19K12342
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研究機関 | 山陽小野田市立山口東京理科大学 |
研究代表者 |
立花 研 山陽小野田市立山口東京理科大学, 薬学部, 准教授 (10400540)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / DNAメチル化 / エピジェネティクス / 神経幹細胞 / 慢性炎症 / 胎児期曝露 |
研究実績の概要 |
ナノ粒子は様々な用途に用いられ産業の発展に寄与しているが、その一方で様々な健康影響の原因となる。我々はこれまでに、胎児期のナノ粒子曝露が成長後の脳機能障害を引き起こすことを示してきた。ナノ粒子の健康影響には慢性炎症が関わることが示されているが、慢性炎症と健康影響をつなぐメカニズムは解明されていない。DNAメチル化は遺伝子発現制御機構の一つであり胎児の発生に必須であるが、慢性炎症によってその異常が蓄積される。このことから、ナノ粒子曝露による慢性炎症がDNAメチル化異常を引き起こし、胎仔の脳機能障害の原因になると考えられる。本研究では、神経幹細胞に着目し、ナノ粒子曝露による慢性炎症が引き起こすDNAメチル化異常を調べ、神経幹細胞や分化後の神経系細胞に及ぼす機能的変化と脳機能障害との関わりについて解明を目指す。 2021年度は、2020年度までに引き続き、ナノ粒子による慢性炎症の原因となる炎症関連タンパク質の同定を目指して解析を行った。マウス由来ミクログリア様細胞株(MG5)に対してシリカナノ粒子を曝露し、曝露1時間後および72時間後における炎症性サイトカインの遺伝子レベルでの発現量の変化について検討を行った。調べた炎症性サイトカインのうち、多くは曝露1時間後の発現変動が認められたものの、72時間後にはその発現量が非曝露の細胞と同等であった。一方、1つの炎症性サイトカインは、曝露72時間後においても曝露量依存的な発現量の増加が認められた。このことから、MG5細胞がナノ粒子を取り込むことによりこの炎症性サイトカインが持続的に放出され、炎症性の反応を引き起こす可能性が示唆された。今後は、MG5細胞の培養上清を用いてこの炎症性サイトカインの放出量をタンパク質レベルで解析するとともに、神経幹細胞に作用させることでDNAメチル化状態や増殖能・分化能などに生じる変化を解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、ナノ粒子による慢性炎症の原因となる炎症関連タンパク質の同定、炎症関連タンパク質が神経幹細胞のDNAメチル化状態に及ぼす影響の解析、炎症関連タンパク質が神経幹細胞の分化能・増殖能および神経系細胞への分化過程における機能獲得に及ぼす影響の解析を主な研究内容としている。2021年度まで、ナノ粒子による慢性炎症の原因となる炎症関連タンパク質の同定に着目して研究を継続してきた。慢性炎症に関与する可能性のある炎症性サイトカインについて、遺伝子レベルでの解析が進んでいるが、さらにタンパク質レベルでの解析を今後行う必要があると考えられる。また、この炎症性サイトカインが神経幹細胞のDNAメチル化状態や増殖能・分化能等に及ぼす影響を今後検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度までに引き続き、ナノ粒子による慢性炎症の原因となる炎症関連タンパク質の同定を継続する。これまでに行ってきた遺伝子レベルでの検討から、ナノ粒子曝露により長時間にわたり発現変動が認められる炎症性サイトカインの候補を見出した。この炎症性サイトカインについてタンパク質レベル、特に培養上清中への放出量の変化について解析を行う。また、この炎症性サイトカインを神経幹細胞(培養細胞株)に作用させ、DNAメチル化状態や遺伝子発現にどのような影響が生じるか、検討を行う。さらにそのDNAメチル化異常および遺伝子発現が神経幹細胞の増殖能や分化能にどのような機能的変化を及ぼすか細胞レベルでの検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症に対する対応から、当該研究以外の業務量が増えたため、当初の想定に比べ研究の進捗が遅れてしまっている状況である。本年度は、当初の研究計画にしたがって研究を進め、計画的に執行する予定である。
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