研究課題/領域番号 |
19K12343
|
研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
北 加代子 帝京大学, 薬学部, 准教授 (30407887)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | メチル化ヒ素 / チオ-ジメチルアルシン酸 / 染色体数異常 / 紡錘体チェックポイント / BubR1 |
研究実績の概要 |
ヒ素は発がん物質として知られているがその発がん誘発機構は不明である。ヒトにおけるヒ素のメチル化代謝はこれまで解毒機構と考えられていたが、申請者はメチル化ヒ素の1つであるチオ-ジメチルアルシン酸(Thio-DMA)によって染色体数の異常が誘発されることを明らかにしている。染色体数の異常は多くのがん細胞にみられる特徴であるが、本研究では、Thio-DMAがどのように染色体数の異常を誘発するのか解明するとともに、染色体数の異常が、がん化の引き金になるのか解明することを目的としている。 これまでThio-DMAが紡錘体チェックポイントタンパクのBubR1を活性化し、細胞を分裂中期に停止させ、細胞死を誘発することを明らかにしてきたが、BubR1の活性化機構は不明であった。本研究からThio-DMAはグルタチオン存在下で微小管の重合を阻害することで紡錘体チェックポイントを活性化していることが判明した。さらに細胞内のグルタチオンを枯渇させた場合、Thio-DMAによる紡錘体チェックポイントの活性化だけでなく、染色体数の異常を持つ細胞も認められなくなることを見出した。このことからThio-DMAはグルタチオン存在下で微小管重合阻害作用を発揮し、紡錘体チェックポイント機構を作動させ、染色体の均等な分配が保障されない細胞を淘汰している可能性が示唆された。一方、紡錘体チェックポイントが不十分な場合、異常な細胞が淘汰されず、染色体数の異常を持った細胞が出現したと推察された。次にThio-DMAで誘発される染色体数の異常がどの程度維持させるのか調べるため、Thio-DMAで一定期間曝露した細胞をクローン化し、染色体数を調べた。その結果、得られたクローンの70%以上で染色体数の異常がみられた。引き続きこれらのクローンについて長期培養後の染色体数の変化やがん化の特徴の出現の有無について解析を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時のテーマ②として掲げた「多核細胞および染色体の数的異常を持った細胞の悪性化解析」について、チオ-ジメチルアルシン酸処理後の細胞をクローン化し、染色体数の異常がみられた複数のクローンを得ることに成功した。テーマ②は長期間の解析が必要な内容であるため、初年度でクローン化に成功したことは、これからの解析を進めて行くうえで極めて重要と思われる。また、初年度の後半からはがん化の特徴を明らかにするためのアッセイについて、アッセイ法に慣れるとともに予備検討にも着手できた。一方、テーマ①として掲げた「メチル化ヒ素による多核細胞および染色体の数的異常を司る細胞内分子の同定」に関しては、細胞内のグルタチオンの存在がチオ-ジメチルアルシン酸による紡錘体チェックポイントの活性化と染色体数の異常の出現に深く関与する可能性を見出した。抗がん剤としても使用されるビンクリスチンは微小管の重合を阻害することで細胞を分裂期に留め、腫瘍の増殖を抑制することで抗がん作用を発揮するが、チオ-ジメチルアルシン酸もグルタチオン存在下でビンクリスチンと同様の作用を発揮し、紡錘体チェックポイントを活性化することを見出した。従って、テーマ①についても、チオ-ジメチルアルシン酸による紡錘体チェックポイント活性化機構の一端を解明できたと思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
現時点では、申請時の内容に沿って研究を進める予定である。特にチオ-ジメチルアルシン酸によって染色体数に異常が生じたクローン細胞の樹立に成功したことから、これらのクローンががん化の特徴を示すのかどうかについて、詳細な解析を行う予定である。染色体異常細胞の増殖の様子やがん化の特徴として知られる遊走能、浸潤能の亢進などの評価は、すでに予備検討を開始し、アッセイ法の樹立に着手している。また、申請時には計画していなかったが、高い浸潤能を示したクローンについては、浸潤に関する遺伝子やタンパクの発現レベルなどを調べたり、種々の抗がん剤に対する感受性・耐性について検討したりするなど、新たな解析も行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
消耗品購入や学会発表のための参加費、旅費などを差し引いたところ、端数として出た金額である。これは次年度において消耗品費に充てる予定である。
|