研究課題
本研究は「有機ヒ素化合物中毒による小脳症状発症機序解明と解毒剤探索‐治療法の提案を目指して」と題し、茨城県の井戸水ヒ素汚染事故の主因物質であるジフェニルアルシン酸(DPAA)により生じる神経影響の分子生物学的メカニズムを明らかにし、そのメカニズムに基づきDPAAばく露中止後の早期回復を促す薬物すなわち解毒薬を求めて、DPAAによる培養小脳アストロサイトの異常活性化(in vitro)をエンドポイントとしてスクリーニングを行い、DPAA飲水ばく露により生じる行動異常(in vivo)に対する効果を検証することで、事故発生時の治療法の提案を目指している。初年度である2019年度は、主に培養細胞を用いて研究を行った。DPAAによる神経影響の分子生物学的メカニズムについては、DPAAはタンパク質のシステイン残基に結合するという仮説をたて、実験系の確立を試みた。また、これまでラット由来の細胞を対象として実験をおこなってきたが、ヒトにおけるリスク評価を考えてヒト小脳由来アストロサイトを入手し、DPAAに対する感受性の種差を検討したところ、ヒト由来アストロサイトはラットのそれに比べDPAAに対する感受性が低かったもののラットと同様に異常活性化を示すことを明らかにした。DPAAによる中毒に対する解毒薬の探索については、これまで確立したラット小脳由来アストロサイトの異常活性化をエンドポイントとしていくつかの化合物を検討したところ、複数のチオール基含有化合物が候補として得られたので今後精査する予定である。
2: おおむね順調に進展している
2019年度は、年度末に多少不具合があったもののほぼ計画通りに研究が遂行できた。
令和二(2020)年度は、今年度の実績を踏まえ、DPAAによる神経影響の分子生物学的メカニズムを解明しながら、それをもとにより広く神経化学的メカニズムの理解にも踏み込み、また解毒薬の探索も計画通りに遂行したい。
2019年度末(2020年初頭)、諸般の事情により実施予定だった実験が行えずそれにかかる消耗品を購入する必要性がなくなり、さらに2020年度に入っても研究の本格的実施は不可能であることから少々の金額が繰り越されたが、研究が再開可能となれば速やかに研究体制を復旧するために適切に使用したい。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (12件)
PLOS ONE
巻: 14 ページ: e0221440
10.1371/journal.pone.0221440