研究課題
本研究は「有機ヒ素化合物中毒による小脳症状発症機序解明と解毒剤探索‐治療法の提案を目指して」と題し、ジフェニルアルシン酸(DPAA)という有機ヒ素化合物についてその神経影響メカニズムの解明に努めている。DPAAは茨城県の井戸水ヒ素汚染事故の主因物質であり、その井戸水を使用していた住民に小脳症状を主徴とする神経影響がみられた。したがって本研究は単にメカニズム解明にとどまらず、DPAAの影響を抑える、またはその影響からの回復を促進するような薬剤の探索に挑戦している。評価モデルとしては、培養ラット小脳由来アストロサイトのDPAAによる異常活性化(in vitro)と成体ラットのDPAAによる行動異常(in vivo)を確立した。DPAAによる異常活性化を顕著に抑制するジメルカプトコハク酸やNアセチルシステインについて回復促進効果を期待してDPAAにより異常活性化させたラット小脳由来アストロサイトにこれらを投薬したところ、残念ながら全く回復促進効果はみられなった。また、DPAAにより分泌が誘導されるサイトカインのプロファイリングをヒトおよびラットの培養小脳由来アストロサイトにおいて行ったところ、サイトカインの種類は非常に限定的でかつ類似したものだった。今後もDPAAによる異常活性化を抑制または回復を促進する薬剤のin vitroスクリーニングを行いながら、得られた候補薬物についてin vivoでの検討を行いたいと考えている。このような事故がまた発生する前に、事故発生時に迅速に対応するための情報を提供できるよう努める。
2: おおむね順調に進展している
DPAAによる異常活性化を抑制する薬剤についてはだいぶ知見がたまってきたが、期待をしていたジメルカプトコハク酸やNアセチルシステインに全く回復促進効果はみられなったことから、まだ回復促進薬のin vitroスクリーニングを行う必要がある。
今後もDPAAによる異常活性化を抑制または回復を促進する薬剤のin vitroスクリーニングを行いながら、得られた候補薬物についてin vivoでの検討を行いたい。
本研究はグローブや検査用試薬、プラスチック類など医療関係業者が必要とする物品を必要とするが、今年度はいろいろなタイミングで品薄・欠品状態がみられ納期未定となる場合が多かった。必要なのは変わらないので納期未定を承知で早めに注文し、納入される日を待っていたが納品されずに年度を越えてしまった。令和3年度になったので納品され次第、適切に使用したい。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件)
IBRO Reports
巻: 22 ページ: 276-289
10.1016/j.ibror.2020.10.004