研究課題/領域番号 |
19K12348
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
赤木 純一 国立医薬品食品衛生研究所, 病理部, 主任研究官 (60512556)
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研究分担者 |
横井 雅幸 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 准教授 (00322701)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グリシドアミド / アクリルアミド / 遺伝毒性 / 変異原性 / 損傷乗り越えDNA合成 |
研究実績の概要 |
食品の加熱調理により生成する発がん性物質であるアクリルアミドは生体内でシトクロムP450 2E1によりグリシドアミド(GA)に代謝され、主にゲノムDNA中のデオキシグアノシン(dG)のN7位に付加体(GA7dG)を形成する。dGのN7位アルキル化体であるGA7dGは化学的に不安定で試験管内では容易に脱プリン化するため、GA7dGがアクリルアミドの遺伝毒性・突然変異原性にどのように寄与するかは明らかになっていなかった。我々は糖部を2′-デオキシ-2′-フルオロアラビノグアノシン(FdG)に置換した安定化アナログ(GA7FdG)を用いた細胞内損傷乗り越えDNA合成(TLS)アッセイにより、GA7FdGはDNA複製を強く阻害し、点突然変異を誘発することを見出した。そこで本研究ではヒト細胞におけるアクリルアミド誘発遺伝毒性・突然変異原性に寄与するTLSポリメラーゼを解析するため、ゲノム編集によりそれぞれのPol遺伝子をノックアウト(KO)したクローンを作成し、GA7FdGのTLS効率および突然変異頻度を解析している。本年度は、昨年度作成したPolη KO、Polκ KO、および Polθ KOクローンに加えて、Polι KOおよびREV1 KOクローンを作出し、それらの細胞におけるGA7FdGのTLS効率および突然変異頻度を解析した。その結果、Polκ KO細胞では親細胞株と比べてGA7FdGの変異頻度が約半分程度に低下し、GA7FdGに対するTの誤重合が有意に低下していたことから、PolκはGA7FdGに対するTの取り込みと、その結果として生じるGC-AT変異に寄与していることが示唆された。その一方で、 GA7FdGのTLS効率に変化は見られなかった。プライマー伸長アッセイではPolη、Polκ、Polι、REV1はいずれもGA7FdGに対して1塩基を取り込む活性を示したことから、GA7FdGに対する塩基重合段階には冗長性があり、Polκ KO細胞では他のTLSポリメラーゼがGA7FdGに対して塩基を重合することでGA7FdGを乗り越える活性が維持されているのではないかと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに、Polη、Polκ、Polι、Polθ、およびREV1のKO細胞の作出に成功し、それぞれの細胞を用いたGA7FdGの細胞内TLSアッセイを実施しており、その結果、PolκがGA7dGによる点突然変異の誘発に寄与する可能性を見出した。また、プライマー伸長アッセイではPolη、Polι、Polκ、REV1、のいずれも鋳型鎖上のGA7FdGに対して1塩基を重合する活性を持ち、塩基重合段階には冗長性があることが明らかとなっており細胞内TLSアッセイの結果を裏付けるデータが得られている。 一方で、当初予定していたPolζ(REV3)のKO細胞は多くのクローンを解析しても片アレルの欠失変異体のみが得られ、両アレルの欠失変異体が得られていない。これはREV3が細胞レベルで生存に重要な因子であり、本研究で用いているヌクレオチド除去修復機構欠損細胞では合成致死性を示す可能性があるためと考えられた。 また、プライマー伸長アッセイではさまざまなTLSポリメラーゼによりGA7FdG に対して1塩基のみが重合され、Polζによる伸長反応も見られなかったにも関わらず、細胞内TLSアッセイでは複製産物が得られていることからPolζ以外の因子が伸長反応に関与している可能性を考えて、ヒト細胞の核抽出液を用いて伸長反応が見られるかどうか検証すること、および、PolκがGA7FdGによる点突然変異に寄与することが示されたため、dATP、TTP、dCTP、dGTP をそれぞれ単独で加えたシングルヌクレオチドの取り込みアッセイを行い、PolκがGA7FdG に対してどの塩基を取り込む傾向を示すか解析することを予定していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い神戸大学研究基盤センターアイソトープ部門での実験を自粛したため、本年度の実施を見送った。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究でPolκ KO細胞でGA7FdGによる変異頻度の低下が見られたため、Polκ KO細胞に野生型Polκを発現させて相補実験を行いPolκ欠損による影響であることを確認する。 また、本年度の実施を見送ったヒト細胞の核抽出液を用いたGA7FdGへの1塩基重合後の伸長反応、およびシングルヌクレオチドの取り込みアッセイを神戸大学研究基盤センターアイソトープ部門にて実施する。 本研究で用いているヌクレオチド除去修復機構欠損細胞では、フレームシフト変異の導入による欠失変異体(REV3-/-)は得られない可能性があるため、REV3の活性中心に点突然変異を導入しポリメラーゼ活性のみを失わせた不活性変異体(REV3CD/CDまたはREV3CD/-)の作出を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は国際会議(6th DNA Polymerases meeting、ストックホルム、スウェーデン)参加のために旅費を多めに計上していたが、パンデミックにより2022年5月に延期され、国内学会についてもオンライン開催となり、さらに神戸大学での実験を見送ったため旅費の支出がなくなり、次年度に繰り越すこととなった。次年度使用額は、今年度の結果をもとに次年度新たに計画しているPolκ相補細胞の解析や、次年度に見送った神戸大学におけるラジオアイソトープを用いた実験のための旅費等に使用する。
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