研究課題/領域番号 |
19K12353
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研究機関 | 国立水俣病総合研究センター |
研究代表者 |
坂本 峰至 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 所長特任補佐 (60344420)
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研究分担者 |
中村 政明 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 部長 (50399672)
板井 啓明 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (60554467)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 水俣病 / メチル水銀 / セレン / 環境試料 / ヒト試料 / 水俣病患者 / ラット実験 |
研究実績の概要 |
本研究では、水俣病発生当時の環境と患者臓器の歴史的試料を新規に分析することで水銀濃度と連動して上昇したセレン濃度の実証を行い、水俣病発症におけるセレンの役割を考察する。急性患者の臓器における水銀(Hg)/セレン(Se)モル比を検討したところ、肝臓や腎臓より大脳、小脳でHg/Seモル比が顕著に上昇していることが判明した。そこで、大脳と小脳のHg/Seモル比の顕著な上昇が、水俣病において脳に特異的に傷害を引き起こす一因となることが示唆された。 本年度は、ラットにメチル水銀とセレノメチオニンを投与することで得られるセレンの保護効果とその結果生じるラットの脳中Hg/Seモル比の変動に焦点を当てた検討を行なった。Hg/Se のモル比=3となるように飲水にメチル水銀(15 ppm)と餌にセレノメチオニン (2.1 ppm)を調整し、それぞれ単独及び同時に8週間投与した(各群 n=8)場合、メチル水銀による体重減少と後肢交叉発症へのセレノメチオニンの防御効は認められなかった。一方、メチル水銀とセレノメチオニンをHg/Seモル比=1で投与すると、脳中水銀濃度はメチル水銀単独と同様であったにも関わらず、セレノメチオニンによる顕著な体重抑制と発症抑制が確認された。以上のことから、曝露するメチル水銀濃度に加えて、投与するHg/Seモル比がメチル水銀の毒性発現・防御に重要であることが示された。更に、メチル水銀とセレノメチオニン等モル投与群は、脳内水銀濃度が発症閾値を超える約20 ppmに達しても発症しないことが示され、セレノメチオニン添加による脳におけるHg/Seモル比の顕著な減少が、メチル水銀毒性 発症の抑制に繋がったと考察された。 これらの研究成果は、魚介類に含まれるメチル水銀のリスク評価には、共存するセレンの含有量とHg/Seモル比が重要性であることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、水俣病患者が摂取していたと想定される魚介類と水俣病患者の臓器、それぞれにおける水銀濃度、セレン濃度及びHg/Seモル比に関する初めての報告である。水俣病発生当時、水俣病患者は汚染魚介類の摂取によってメチル水銀とセレンの双方に曝露されていたことが推察された。一方で、患者の脳におけるHg/Seモル比は3を超えるという、異常に高濃度のメチル水銀に曝露されていたことが判明した。ラット実験では、メチル水銀の単独曝露で肝臓と腎臓のセレン濃度が上昇したが脳中セレン濃度は上昇はなかった。メチル水銀とセレノメチオニンの同時投与で、患者で観察されたような脳中セレン濃度上昇と肝臓や腎臓における顕著なセレン濃度上昇が示された。また、曝露するメチル水銀濃度に加えてHg/Seモル比が、メチル水銀の毒性発現・防御に大きく寄与することを見出した。本研究は、環境、ヒト試料、ラット実験と多方面にわたる検討を実施した。特に、ラット実験は申請時の計画に無かったもので、予定以上の時間を要することとなった。 参加を考えていた国際学会がコロナ禍で開催されないことが続いたが、2023年8月にBostonで開催されたInternational Society of Exposure Science (ISES) 2023 Annual MeetingにReevaluation of Minamata disease provides insights into the protective role of selenium against methylmercury toxicityのタイトルで口頭発表を実施し、有意義な質疑応答が出来た。 現在、論文執筆の最終段階である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、環境、ヒト試料、ラット実験と多方面にわたる研究を実施していることから、論文執筆に予定以上の時間を要した。しかし、動物実験の結果も出そろって、論文を書ける状況になった。現在、インパクトファクターの高い国際ジャーナルに投稿すべく、結果を図表に取りまとめ、必要な統計解析を実施している。加えて、必要な文献を収集し、本研究の重要性、解決されていない問題点、新たな発見等を強調し、本研究の社会への貢献を説明することで原稿の最終取り纏めを行っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度までに論文投稿を行う予定だったが、執筆作業が遅れたため。論文の英文校正や出版等に残高を使用する予定である。
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