底生生物(ベントス)は、物質循環や底生魚類の餌としての役割を担う生態系を構成する重要な生物群であるが、採泥および専門家による同定・計数が必須である。そこで本研究では、これまで特定の希少種の分布推定に利用されてきた生息地予測解析(Maxent model)を瀬戸内海に出現する主要種に適用し、底質環境から各マクロベントス種の出現確率を推定するモデルを構築することで課題を解決した。また、モデル推定において真に必要な底質項目を絞り込むことで、様々な海域で広く一般的に取られている底質項目を用いた出現確率推定が可能となった。瀬戸内海モデルの7項目を使用して解析した場合のAUCを基準に、寄与率の低い底質項目を順次外した後の相対AUCを算出した。全10種のベントスで3項目まで項目数を減らしても相対AUCが0.94以上となり、精度が維持された。寄与率が高かった3項目は6種では礫分、泥分、水深であり、残り4種についてもこの3項目の内2項目が含まれていた。そこで、全10種を礫分、泥分、および水深の3項目のみ用いて再度モデルを作成した。3項目のみでモデル作成を行った場合、絞り込んだ3底質項目に礫分,泥分,水深以外の項目が含まれていた4種においても大幅な相対AUCの低下は見られず、代表10種において礫分、泥分、水深を使用した時の相対AUCは0.94以上の値を示し、かつ絶対AUCも0.7以上であり十分な精度をもつモデルが作成された。さらには、開発した瀬戸内海モデルを用いて有明海のマクロベントス種の出現確率推定も可能となった。有明海の調査では、瀬戸内海の代表10種のうち5種が出現していた。この5種について、ベントスとともに調査されていた礫分、泥分、水深を使って出現確率を推測した。全5種についてAUCは0.7以上を示し、作成したMaxcentモデルは他海域へ適用することが可能であることが示された。
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