研究課題/領域番号 |
19K12358
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
橋本 伸哉 日本大学, 文理学部, 教授 (10228413)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | モノハロメタン / ラビリンチュラ類 / 生物生産 / 温度依存性 |
研究実績の概要 |
本研究「ラビリンチュラ類による揮発性有機化合物の生成の検討と環境影響評価」の目的は、1:「ラビリンチュラ類ヤブレツボカビはモノハロメタンを含む揮発性有機化合物を生成するのか」、また生成する場合、2:「揮発性有機化合物の生成量は種ごとに異なるのか?」、3:「海洋での生成量はバクテリアと同等なのか?」、さらに、4:「ラビリンチュラ類ヤブレツボカビの揮発性有機化合物の生成量と海水温度に関係はあるのか?」という点について明らかにすることである。初年度の研究から、1:ラビリンチュラ類Aurantiochytrium sp.、Botryochytrium radiatum 及びSchizochytrium sp.がクロロメタン、ブロモメタン、ヨードメタンを生成することが明らかとなり、2:その生成量は、種によって異なることが明らかとなった。また、3:単位生物量当たりのモノハロメタンの生成速度を算出して、海洋でのラビリンチュラ類の細胞密度と海洋でのモノハロメタンの濃度とを比較したところ、Botryochytrium radiatumは、海洋でのクロロメタン濃度の6-23%、ヨードメタン濃度の0.5-0.6%を説明出来うることが分かり、少なくとも海洋でのクロロメタンの主要な生成源の一つとなりうることが示された。 2年目の2020年度には、4:「ラビリンチュラ類ヤブレツボカビの揮発性有機化合物の生成量と海水温度に関係はあるのか?」という点について実験を行った。その結果から、ラビリンチュラ類によるモノハロメタン生成は培養温度による影響を受けることが明らかとなった。研究成果は、2020年11月に行われた日本地球化学会第67回オンライン年会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究結果から明らかとなった、モノハロメタンを生成するラビリンチュラ類の中から、最もクロロメタンを生成する種であるBotryochytrium radiatumを対象に選び、培養温度を20℃、25℃、30℃でそれぞれ培養して、モノハロメタン生成への温度の影響を調べた。培養には、従来の方法(Takao et al., 2005)に基づいて、D(+)-グルコースやBBLTM酵母エキスなどを添加したろ過海水1 LにAgar powder(細菌培地用)を加えたmedium-H培地を用いた。培養試料に含まれる揮発性有機化合物の測定はダイナミックヘッドスペース-ガスクロマトグラフ質量分析装置で行った。実験の結果より、Botryochytrium radiatumによるクロロメタンの生成量は培養温度の上昇に伴い上昇することが明らかとなった。培養温度20℃、25℃、30℃で培養した培地中のクロロメタンの最大濃度は、約6000、9000,14000 pmol/L であった。一方、Botryochytrium radiatumによるヨードメタンの生成量は培養温度の上昇に伴い減少し、20℃、25℃、30℃で培養した培養液中のヨードメタンの最大濃度は、約130、100,70 pmol/L であった。これらの結果は、ラビリンチュラ類には海水の広い温度範囲においてモノハロメタンを生成する種があることを示している。また、海水温の上昇がラビリンチュラ類によるモノハロメタンの生成量・生成組成に影響をもたらし、将来の地球環境の温度上昇が、ラビリンチュラ類によるモノハロメタンの生成に影響を与えうることを示唆している。以上、初年度と2年目の研究成果から、本研究の目的の1から4までが順調に達成されている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果から、モノハロメタンを生成する複数種のラビリンチュラ類が見つかり、また海水温度がモノハロメタンの生成量に影響を及ぼすことが示されたが、これまでに調べられているラビリンチュラ類の種はわずかであり、まだまだ知見は少ないのが現状である。そのため最終年度には、モノハロメタンを生成するラビリンチュラ類の探索を重点的に行う。ラビリンチュラ類を多く含むことが知られている沿岸域及び塩性湿地等の試料を主な対象として、ラビリンチュラ類の単離・培養を行い、モノハロメタンの生成種を調べていく。 2020年度の研究結果から、ラビリンチュラ類Botryochytrium radiatumが、水温20℃から30℃の範囲においてモノハロメタンを生成すること、また水温10℃の上昇によってクロロメタンの生成量が約230%増加することが見出だされている。2021年度は、海水温の変動がラビリンチュラ類によるモノハロメタン生成へどのように影響を及ぼすのかについてより詳細に調べるため、Botryochytrium radiatum以外のラビリンチュラ類によるモノハロメタン生成への温度依存性を調べる。また、ラビリンチュラ類は沿岸域にも生息するが、塩分等海水成分の異なる環境に生息域が広がっている。このことから、培地に使用する海水成分の違いによるモノハロメタン生成及びラビリンチュラ類の成長への影響を調べ、どのような成分がラビリンチュラ類によるモノハロメタン生成に影響を及ぼすのか検討する。以上3年間の研究成果をまとめて、海洋のラビリンチュラ類が海洋でのモノハロメタンの生成にどの程度寄与しうるのか明らかにし、また海水温の変動等による海洋環境の変化が、モノハロメタンの生成量へどのように影響を及ぼし得るのか予測するモデルを構築する。
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