研究課題/領域番号 |
19K12359
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
横尾 頼子 同志社大学, 理工学部, 助教 (00334045)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 降水 / ストロンチウム同位体比 / 鉛同位体比 / 黄砂 |
研究実績の概要 |
本研究の目的である季節・年ごとおよび地域別に得られる大気降下物の化学組成から季節の違いや都市活動の影響を明らかにできる指標を構築するために,近畿圏4地点(京都府京都市,京都府京田辺市,大阪府寝屋川市,兵庫県西宮市)で1ヶ月毎に降水を採取した.本研究では,降水と共に乾性降下物の化学組成を粒径別に調べるために,ローボリウムエアーサンプラーによる乾性降下物の採取を計画した.設置したエアーサンプラーのポンプのモデルチェンジのため,試料の採取は2020年度から行う. 2019年採取の降水試料と2018年までに採取した降水試料のpHとEC(電気伝導度),元素組成およびストロンチウムと鉛の同位体組成を分析し,データの蓄積を進めた.降水試料は0.2 μmメンブレンフィルターを用いて濾過し,可溶性成分と不溶性成分に分けて分析を行った. 2010年・2011年に採取した月別降水から得られた可溶性成分と不溶性成分のストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)から,4地点とも春季に黄砂の寄与がみられた.降水から得られた可溶性成分と不溶性成分の鉛同位体比(208Pb/206Pb,207Pb/206Pb)は採取時期や地点によって異なることから,鉛(Pb)の起源が異なることが考えられる.Pbの降下量が多い冬季にPb同位体比は高く,大気の流跡線解析結果とあわせてアジア大陸由来のPbの流入が考えられた.都市域の降水において,降水中の可溶性成分と不溶性成分のストロンチウムと鉛の同位体比は黄砂や長距離輸送物質の指標となることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
降水試料は近畿圏4地点(京都府京都市,京都府京田辺市,大阪府寝屋川市,兵庫県西宮市)で1ヶ月毎に予定通り採取した.pHとEC(電気伝導度)を測定した後,降水を濾過して得られる濾液(可溶性成分)と不溶性成分に分けて元素・同位体分析を行った.同位体分析に必要な元素濃度データの蓄積をイオンクロマトグラフとICP質量分析装置を用いて進めた.同位体についてはストロンチウムと鉛の同位体比の分析をマルチコレクタICP質量分析装置で重点的に行った.ネオジウムと硫黄の同位体については同位体分析用試料の作製と効率的な回収方法の構築を進めた. 乾性降下物を直接・粒径別に採取することができるローボリウムエアーサンプラーは,ポンプのモデルチェンジのため,設置が予定よりも遅くなった.乾性降下物の採取は2020年度から行うことになった.
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今後の研究の推進方策 |
降水試料は近畿圏4地点(京都府京都市,京都府京田辺市,大阪府寝屋川市,兵庫県西宮市)で引き続き1ヶ月毎に採取を行い,pHとEC(電気伝導度),イオンクロマトグラフとICP質量分析装置を用いた元素組成のデータ蓄積を進める.同位体については,ストロンチウムと鉛の同位体比と共に,ネオジウムと硫黄の同位体について分析を進める. ローボリウムエアーサンプラーによる乾性降下物の直接・粒径別採取を始め,試料処理とICP質量分析装置を用いた元素組成分析を行い,降水の化学組成と比較する. 季節・年ごとおよび地域別に得られる降水と乾性降下物の化学組成をもとに,近畿圏の地質図と土地利用図から,各地域の地質や土地利用,人間活動と降水の水質や乾性降下物の組成との関係を明らかにする.流跡線解析を行い,アジア大陸からの黄砂の影響を見積もる.今後の大気環境の保全対策や解析に活かすことのできる情報,人間活動の影響の指標となる元素・同位体組成の特徴をまとめる.
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