研究課題/領域番号 |
19K12360
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研究機関 | 公益財団法人環境科学技術研究所 |
研究代表者 |
綾部 慈子 公益財団法人環境科学技術研究所, 生物影響研究部, 任期付研究員 (70546994)
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研究分担者 |
竹中 千里 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (40240808)
川口 勇生 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線防護情報統合センター, 主任研究員(定常) (70392222)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / 被ばく線量評価 / 節足動物 |
研究実績の概要 |
2011年の福島第一原子力発電所事故以降、放射性核種による汚染と放射線被ばくへの関心が高まっている中、青森県六ケ所村の大型再処理施設の竣工を2021年に控え、科学的知見の積み上げ及びそれらの情報提供を通じて安心醸成に資する必要がある。福島では、野生生物への影響として節足動物において奇形報告があるものの、検証に必要な被ばく吸収線量等の研究データや知見はなく、奇形が出現するのかについては様々な議論がある。そのため、身近な節足動物の汚染および被ばく線量評価は科学的・社会的意義において重要な課題といえる。本研究は、捕食性節足動物のジョロウグモを放射線による環境影響の指標生物とすべく、福島で放出された放射性セシウムに留まらず、原子力関連施設から通常排出される放射性核種も対象に、ジョロウグモという同一生物種の野外データを基に、(1)複数の性質の異なる放射性核種における環境中から生体内への時空間的な放射性物質の取り込み特性を明らかにするとともに、(2)被ばく吸収線量を評価し、過去の照射実験による影響データとの比較を行うことにより、放射性核種や放射線が周辺環境に及ぼす影響を統合的に解明する。2019年度は、福島県の汚染森林において土壌及びジョロウグモの採取を行い、放射性セシウム汚染に関するデータを取得し分析すると共に、既に取得した2013~2016年度までの時系列データを用いて、ジョロウグモの内部及び外部被ばく線量をERICA Tool 1.3を用いて計算した。2013年度のジョロウグモの内部及び外部被ばく線量率は約0.9 mGy/dayとなっており、その後時間経過と共に低下し2016年で0.3 mGy/dayを下回る値となった。昆虫の誘導考慮参考レベルは10~100 mGy/dayとされており、福島の汚染地域に生息するジョロウグモの被ばく線量は、これよりも低い値であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジョロウグモ及び土壌の採取は予定通り行い、試料処理についても完了した。ただし、土壌試料の放射性セシウム測定は終了したものの、ジョロウグモ試料の放射性セシウム測定は、測定効率が悪いため完了しておらず、継続中である。2020年度中には、測定は終了できる見込みである(ただし、測定を行っている名古屋大学アイソトープセンターが新型コロナウイルス対策のため利用が制限されており、状況次第では進捗状況に影響が出る可能性が高い)。 被ばく線量の計算については、順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度同様、ジョロウグモ産卵期の9~10月に福島の汚染森林でジョロウグモ及び土壌試料の採取を行い、試料処理後、名古屋大学で放射性セシウムの測定を行う予定である。取得したデータをもとに、被ばく線量の計算を行う。被ばく線量の評価については、計算に必要な生物のスケーリングファクターなどの調整についても、共同研究者と共に検討を行う。 試料採取及び測定は秋以降の予定ではあるが、新型コロナウィルスによる社会情勢次第では、予定通り研究が遂行できない可能性が考えられる。その際は、2019年度採取した試料測定を進めると共に、被ばく線量の計算を行う。仮に2020年度の測定値が欠損したとしても、2021年度にデータを取得し取りまとめを行えば、大きな支障を出すことなく研究成果の発表につなげることが可能である。
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