近年、人工化学物質による海洋汚染が世界的に問題となっている。特に、主に海洋環境で船舶や漁網等の防汚塗料として用いられてきた有機スズ化合物は、その強い水生生物への毒性影響から、国際的に使用が規制された。しかしながら、有機スズ化合物は、現在も沿岸海域に残留し、沿岸生態系への影響が懸念されている。最近では、有機スズ化合物の代替物質による沿岸域の汚染が報告されているが、その生物影響や沿岸域での挙動については不明な点が多い。本研究では、これまでに確立した生物影響評価手法を有機スズ化合物の代替物質に応用するとともに、野外調査により、有機スズ化合物およびその代替物質の汚染状況を把握し、両化合物による沿岸生態系の攪乱機構を網羅的に解明することを目的とする。本年度は、海洋生物を用いて生物影響評価を行った。さらに、沿岸海域で海水・底泥・生物を採取し、それらの試料における船底防汚物質の濃度を測定した。その結果、使用が禁止された現在でも、有機スズ化合物が海洋環境中に残留していることが明らかになった。また、有機スズ化合物のみならず、その代替物質についても様々な試料において蓄積することが確認された。よって、現在、有機スズ化合物および代替防汚物質の両化合物により、海洋環境が複合的に汚染されていることが明らかになった。本研究で得られた成果については、現在国際誌に投稿中である。
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