本研究では、疎水性の高い有機化合物の曝露経路による生物濃縮性の違いを調べるために、溶存態経由の寄与が大きいと考えられるムラサキイガイと、懸濁態経由の寄与が大きいと考えられるミドリイガイを用いた飼育実験を実施した。対象化合物は疎水性の高い(logKow: 7.0~9.2)の炭素鎖10-14の直鎖アルキルベンゼン(LABs)とした。 2021年度はミドリイガイへの溶存態曝露実験およびムラサキイガイへの懸濁態曝露実験を実施した。溶存態曝露実験は、環境雰囲気下でLABsを新品のポリエチレン製レジンペレットに吸着させたものを人工海水に浮かべ、ペレットに吸着したLABsの溶出を促すために分散剤を加えた。対照区は分散剤を加えた人工海水中でミドリイガイを飼育した。懸濁態経由の曝露は、LABs濃度がより高い東京湾運河の堆積物を水槽内に入れ、人工海水内で沈降させた後に水槽内にムラサキイガイを加え、曝露した。対照区は、人工海水のみの系でムラサキイガイの飼育をした。得られた二枚貝は生殖腺を凍結乾燥・粉化後にジクロロメタンにて超音波抽出を行い、二段階のシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製後、ガスクロマトグラフ質量分析計で同定・定量した。 溶存態曝露実験では、曝露区のミドリイガイの組成は変化せず対照区で炭素鎖11の割合が高くなった。対照区では環境雰囲気下から海水へのLABsの溶解が分散剤によって促進され、結果的に真の溶存態曝露が成立したと考えられた。懸濁態曝露実験では、ムラサキイガイの炭素鎖11の割合は、対照区と比較して有意に減少した。統計的な有意差は認められなかったが、堆積物に多く含まれる炭素鎖13の割合も対照区と比較して増加した。フィールド試料において、ムラサキイガイ中のLABs相対組成はミドリイガイと比較してばらつきが大きかったが、その要因として堆積物由来の懸濁粒子の影響の有無が考えられた。
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