研究課題/領域番号 |
19K12368
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
多羅尾 光徳 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60282802)
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研究分担者 |
高田 秀重 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70187970)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バイオフィルム / 生物濃縮 / マイクロプラスチック / ポリ塩化ビフェニル / 微量有機汚染物質 / Daphnia magna / 細胞表面疎水性 |
研究実績の概要 |
1. マイクロプラスチック(MP)の表面に形成されたバイオフィルム(BF)の有無が,動物プランクトンによる微量有機汚染物質の蓄積に及ぼす影響を検証した.表面に緑藻 Chlorella vulgaris のBF を形成した粒径 0.04 mm 程度のポリプロピレン製 MP に,モデル微量有機汚染物質であるポリ塩化ビフェニル(PCBs)を吸着させ,日齢 14 日のミジンコ Daphnia magna に摂食させた.その結果,D. magna に蓄積した PCBs 量は BF の有無による違いが確認されなかった.対照としてMP を摂食させなかった D. magna では,MPs を摂食させた D. magna よりも有意に多量の PCBs が蓄積された.PCBs の D. magna への移行率(D. maguna への移行量/暴露量)をPCBs の同族異性体ごとに検討した結果,異性体にかかわらず,MPs を摂食させたときは 2 %程度,摂食させなかったときは 4 % 程度であった.MPs を摂食させなかった D. magna のほうが PCBs の蓄積量が多かった理由として,溶存態 PCBs の濃度が高かったことが考えられた. 2. 前年度の成果として,細菌細胞表面の疎水性が高いほど細菌による有機汚染物質の蓄積量が低いという現象が見出された.この現象が,オクタノール-水分配係数(LogKow)が異なる他の有機汚染物質においても確認されるかを検証した. 3 種の塩素化フェノール類(CPs)を,細胞表面疎水性が異なる 5 種の細菌純粋株に吸着させた結果,LogKow の違いにかかわらず細胞表面疎水性と CPs の蓄積量の間に負の関係があることが見出された.このことから,細菌への有機汚染物質の蓄積量には表面疎水性が関与しているという,当初の仮説が成り立たないことが確かめられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の当初計画では,プラスチックに付着した細菌から原生動物への有機汚染物質の生物増幅を明らかにすることを目的としている.これは,有機汚染物質が細菌に吸着し,さらに原生動物が細菌を捕食することにより生物増幅されるとの仮説に基づいている.本年度までの研究においては,この仮説の前段階である,細菌が有機汚染物質を吸着することを実験的に明らかにすることができたものの,吸着量が細胞表面の疎水性と負の相関を示すという予想外の結果を得た.この現象の理由を説明するための仮説を検討したり,実験デザインを再構築する必要があったりしたため,次のステップとして計画していた,有機汚染物質を吸着した細菌を原生動物に捕食させる実験を行うまでには至らなかった. それに対して,MP 表面の BF の有無が動物プランクトンへの有機汚染物質の移行に及ぼす影響については予定どおりに実験が進み,当初の仮説から予想される結果とは異なったものの,信頼性の高い結果を得ることができた.現在,論文を投稿するための準備を進めているところである.
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今後の研究の推進方策 |
1. 細菌の細胞表面疎水性と有機汚染物質の吸着量の間に負の相関が生じる理由を解明するため,濃縮係数が異なる 10 種程度の細菌の純粋株を用いて,有機汚染物質の吸着量に及ぼす細胞表面タンパク質の除去の影響,脂質含有量との関係,表面電荷との関係を検討する.さらに,細菌から原生動物への有機汚染物質の生物増幅を評価するため,有機汚染物質を吸着した細菌を原生動物に摂食させ,細菌から原生動物への有機汚染物質の移行率および生物濃縮係数を求める.なお,これらの研究においてはモデル有機汚染物質として,フェノキシ系除草剤の基本骨格であり環境中では難分解性とされている 2,4-dichlorophenol を用いる. 2. 細菌から原生動物への有機汚染物質の生物増幅を評価する.有機汚染物質を吸着した細菌を原生動物に摂食させ,細菌から原生動物への有機汚染物質の移行率および濃縮係数を求める.繊毛虫とベン毛虫の数種類の原生動物を用い,これらパラメータの比較・検討を行う. 3. 今年度の研究成果を論文にまとめ,学術雑誌に投稿する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本補助事業の目的をより精緻に達成するための研究を実施する必要があるため. 以下の分析に必要な消耗品の購入に充てる.細胞表面より除去したタンパク質を電気泳動にて定量するための試薬等.塩素化フェノール類を HPLC にて定量するための試薬等.脂質含有量をガスクロマトグラフにて定量するための器具・試薬等.微生物下部の培養に必要な器具・試薬等. さらに研究成果を論文にまとめ,学術雑誌に投稿するための費用に充てる.
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