研究課題/領域番号 |
19K12370
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 浩平 京都大学, エネルギー科学研究科, 助教 (10263154)
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研究分担者 |
荒木 真 大阪大学, 工学研究科, 招へい研究員 (20794027)
島 正之 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (40226197)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 大気汚染物質 / 健康影響評価 / LURモデル |
研究実績の概要 |
大気汚染物質の曝露に伴う健康影響評価においては,個人ごとに精度の高い曝露量の評価を行うことが望ましい.本研究では,個人曝露量の推定精度の向上を目指し,環境大気汚染濃度を空間的に高解像度で求めることが出来るLand Use Regression(LUR)モデルを用いて国内大気汚染濃度分布の推定を行った. 短期曝露による影響評価への適用を目指し,全国スケールの月平均濃度予測モデルの構築を試みた.短期平均濃度の予測においては,気象因子によって大気汚染濃度が影響すると予想されるため,風速および風向を考慮した風速ベクトルを導入し,LURモデルを改良した.このモデルを用いて,2015,2016年度におけるPM2.5の年平均濃度,および月平均濃度の予測を試みた.月平均濃度分布について,決定係数R2が0.58-0.68と年平均値予測における値とほぼ同等の結果が得られ,LURモデルによる短期平均予測の可能性を確認した. また,長期の大気汚染物質の曝露に伴う,慢性的影響の評価への適用を考慮し,モニタリングネットワークが未整備の時期を含む過去30年間における,PM2.5 の全国月平均濃度分布を機械学習の一手法であるニューラルネットワークをLURモデルに導入し推定した.モデル構築に使用しないモニタリングデータを用いた精度検証の結果としてR2=0.75と高い予測精度が得られた.さらに,2000-2013年における月平均値の時間変化を精度よく再現できた.また,面積および人口の重み付けをしたPM2.5濃度の経年変化を分析したところ,1990年代初頭より減少傾向があることが明らかとなった. これらのモデルを用いてPM2.5に代表される大気汚染物質の空間的高解像度の濃度分布を用い,疫学調査で得られる健康情報との関連を解析することで,大気汚染曝露による健康影響の評価がさらに進むことが期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,大気汚染の個人曝露量推定精度の向上を目指し,Land Use Regression(LUR)モデルの開発改良を目指してきた. 研究計画において課題1として挙げた,LURモデルへの気象場の取り込みについて,観測気象データを面的分布データに変換してモデルの入力データとする改良を行い,PM2.5の国内濃度分布を月平均値として推定する課題については終了した.また改良されたモデルを用いることで日本のPM2.5濃度の予測精度が向上することも確認できた.現在,課題1の気象モデルおよび課題2の大気質モデルの出力をLURモデルに取り入れる検討も進行中であり,現在その問題点の解決に向けて検討しているところである. 課題3である大気汚染物質による健康影響の評価へのモデルの適用に関しては,慢性影響への適用を目的とした,過去30年間のPM2.5濃度分布の予測モデルを構築した.現在これを用いた健康影響の評価を進めているところである. 令和元年度の具体的な研究成果としては,課題1に関する成果発表として国内学会で1件,課題3に関する成果発表として,国内学会発表1件,国際英文誌への原著論文1件があり,順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は,課題1として研究中であるLURをモデルへの気象因子の取り込みのうち,気象モデルの出力をLURモデルへ取り込むための検討を進め,観測気象データを用いた場合との精度の比較を行っていく予定である,また課題2として検討中の大気質モデルの出力を取り込むことによる精度向上効果についても検討を進める予定である.これらについては,成果が得られ次第,国内外での学会発表および国際英文誌への投稿を検討する.また,課題3については既に受理された論文の内容を用いて,さらに多くの疫学調査へ適用し,大気汚染物質の曝露に伴う健康影響の評価を行っていく予定である. 当初予定していた研究計画に特に実施上の問題はないため,現状の通り進めていく予定であるが,代表者及び分担者が対面での打ち合わせを行うことが難しくなる可能性もあるので,ディスカッションをオンラインで行うための環境整備,モデル計算結果等のデータの保存・管理手法およびウェブ等を利用した成果公開の方法についての検討も行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年初頭からの成果発表のために予定していた旅費が,学会中止等により利用できなくなったことにより,大幅に減少した.代わりに研究計画を実施する順番を入れ替え,令和2年度に実施予定である研究のための物品費に割り当てたが,まだ残額が生じている.令和2年度についても学会がオンライン開催の場合は,旅費使用額が予定より減少するため,さらに研究を進展させるための物品購入に割り当てることも想定している.
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