研究課題/領域番号 |
19K12371
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
山西 博幸 佐賀大学, 理工学部, 教授 (20240062)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 下水処理場 / ノリ養殖 / アンモニア態窒素 / 放流水 / 干拓水路 / 灌漑水 / 有明海 |
研究実績の概要 |
本年度は,季別運転を実施している下水処理場からの放流水を受水する水域内の水質・底質に関する調査を主として実施した.当初計画に沿って,有明海湾奥西部に位置する鹿島市浄化センターを基点とする季別運転の効果を検討する過程で,当処理場ではノリ養殖期でない夏季は,下水処理水を処理場が立地する干拓地内の用水路に流入させ,灌漑用水として利用しており,海域への放流影響はあまりないことが判明し,夏季は下水処理水を灌漑用水に利用することの効果について検討した.また,逆に冬季は,干拓水路を経由せず,直接海域へ放流されており,放流された処理水が河口からノリ漁場を含む水域内にどのように輸送され,栄養塩がどのように広がっているのかを明らかにすることを目的とした. まず,下水道システムの弾力的運用という観点から,季別運転前の活用として,干拓水路内水質をベースに干拓地へのN,P供給量の概算を試みた.その結果,放流水の供給は,水路水の窒素量とリン量の増加に貢献していることがわかる.また,放流水の供給による栄養塩の供給付加を計算すると,12.6%の窒素供給付加,さらに30.8%のリン供給付加という結果が得られた.このことは,下水処理水を灌漑用水として再利用する干拓地の水環境,および再利用による栄養塩の供給という点においての有効性を示すことになった.また,処理水が河口からノリ漁場を含む水域内にどのように輸送され,栄養塩がどのように広がっているのかについては,2回の調査に基づき,有明海の恒流に沿いながら,ノリ養殖域内の流動および混合・希釈および拡散が確認された.最終地点でのNH4+-N濃度は,調査Aで0.72mg/L,調査Bで0.23mg/Lであり,ノリの色落ち限界濃度(DINで0.07~0.1mg/L)以上であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は,下水処理場から放流された処理水の受水域内における挙動を主として調査し,現状の問題点等を抽出することに焦点を当てた.大きく調査は2つの視点で実施された. 1つは,事前調査を実施する中で,対象とする下水処理場がノリ養殖期でない夏季に,放流水を公共用水域ではなく,処理場が立地する干拓地水路内に放流させていることが判明したため,急遽,新たな課題として下水処理水の灌漑用水への効果を検討した.これは,地域特性に応じた下水道システムの弾力的運用の観点から,新たな視点でのデータ収集と研究展開につながるとの判断に至り,当初計画にはない視点での対応として,干拓地水路内の流れと水質調査を行った.その結果,放流口直下から干拓地水路内を流下する過程で放流水に含まれる栄養塩が減少するものの,一般的な水路水の全窒素濃度を考えれば,放流水の流入の結果,灌漑用水に窒素分を付加的に供給することがわかった.また,干拓地内水路への栄養塩供給量を評価したところ,下水処理水の灌漑用水に対する寄与率は7%程度であったものの,放流水流入で12.6%ほどの窒素供給付加になることが概算できた.これが施肥量削減や収量寄与にどの程度つながるのかなどは,引き続きの検討が必要である. 2つ目の視点は,放流流量の比較的少ない処理場からの処理水が河口からノリ漁場を含む水域内にどのように輸送され,栄養塩がどのように広がっているのかを明らかにする調査で,フロートによる流跡解析と流下に伴う水質および底質測定を実施した.その結果,流下水塊の移動距離は6~7㎞で,本水域に広がるノリ養殖域に及んでいることが確認された.また,ノリ養殖初期と最盛期でのNH4+-N濃度の違いから,ノリ養殖による水域内の栄養塩減少は明らかで,ノリの良好な成長維持の一方策として季別運転の効果が期待された.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,季別運転を実施している下水処理場からの放流水の影響が及ぶ水域の水質・底質調査および室内実験をもとに,季別運転の効果と受水域の底質環境容量の評価に取り組み,陸域負荷受水空間内の水-底質との一体的な管理のための知見を得ることを目的としたものである. 申請時当初計画では,季別運転前後におけるノリ漁場を含む放流水流下水域内の水質や底質の現状把握を目的とした調査に終始する予定であったが,事前調査を通して,急遽,新たな課題として下水処理水の灌漑用水への効果を検討した.既往の研究によれば,再生水中の窒素やリンは肥料資源としての価値が評価される一方で,水田での積極的な利用や評価はあまりなされていない現状にある.放流水の灌漑水路内での挙動を把握し,灌漑水路からポンプアップされ,干拓地内の排水路網を経由し,水田に供給されるまでをトレースし,具体的にどの程度の農作物の収量に効果があるかを明らかにすることは,ノリ漁場への栄養塩供給評価とともに新たな運用としての評価も高まると考える. このことから,2年目は,ノリ漁場を含む水域への影響評価は室内実験を主体として行うとともに,下水処理水の干拓地内の水田への肥料効果の可能性を探る新たな取り組みを実施する.また,新たな課題としての農作物収量評価にはドローンを用いた空撮画像での植生活性評価を導入したいと考えている.その結果,当初計画した学生補助による現地水域調査(ADCPを用いた各コンパートメント間の水量・水質調査および対象域の地形測量)は実施せず,3年目以降可能な時期に対応したい.これは,新たな課題設定の影響もあるが,2020年3月から続く新型コロナ禍の影響もある.なお,この変更がなされようとも,2年目の当初計画の底泥の室内実験および放流水を起点とした周辺水域の物質循環機構の解明(各要素の定量化)の遂行に大きな影響はないと考えている.
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