研究課題/領域番号 |
19K12372
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
中田 晴彦 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (60311875)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マイクロプラスチック / プラスチック添加剤 / 道路塵埃 / 起源解析 / 主成分分析 |
研究実績の概要 |
プラスチックごみ(プラごみ)およびマイクロプラスチック (MP)による生態系汚染に社会的関心が高まっている。2021年度は、MPによる汚染現状の把握と発生源の特定を目的として、「道路塵埃中のMP起源解析」に関する研究を展開し、以下の結果を得た。 カラーコーン・反射板・路面標示など、陸域のMP発生源になり得る市販プラ製品81種を購入した。それに、屋外で劣化・破砕していた起源が明瞭なプラ製品の破片41種を加えた122種を対象に、FT-IRとGC-MSで材質および添加剤の種類をそれぞれ同定した。また熊本市内23地点で道路塵埃を採取し、直径1.00~4.75 mmのMPの材質と添加剤を分析した。得られたデータを基に主成分分析を行い、MPの発生源解析を行った。 分析の結果、材質はPMMAが最も多く、次いでPE、PVCの順であった。検出された添加剤は、可塑剤のフタル酸エステル類、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の物質で169種類に及んだ。次に道路塵埃中のMPを分析したところ、PMMAやPVCの割合が高かった。そこで、PMMA製のプラ製品とMPの添加剤組成データを基に主成分分析を行ったところ、プラ製品は反射板や路面塗装など使用用途や製品別にグループ化され、MPはそのいずれかに含まれることが分かった。これは道路塵埃中MPの発生源 (元の製品) が反射板や路面塗装であり、添加剤情報がMPの発生源解析に有用であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究では、熊本市内の淡水湖で採取した底質と魚類を対象に調査を行い、重度のMP汚染の存在を明らかにした。今年度は湖へのMP流入経路を解析するため、道路塵埃と陸域のMP発生源になり得る市販プラ製品をターゲットに、含有する有機系添加剤の種類や組成を比較解析する研究を展開した。 その結果、道路塵埃中には反射板・点字ブロック・路面標示等と同じ色とポリマーのMPが存在し、それぞれ特有の添加剤が含まれることがわかった。また、市販製品にもそれぞれ特有の添加剤が含まれており、MPのそれと比較することで、道路上の様々なプラ製品が経年劣化・微細化してMPが大量発生していることが明らかになった。ただし、こうしたクリアな結果が得られたのはPMMAやPVCといったポリマーであり、最も一般的な材質であるポリエチレンでは明確な傾向は得られなかった。今後、MPの起源解析をさらに高精度化すること、さらにその移動経路を定量的に把握することで、ピンポイントかつ効果的なMP負荷削減に繋がると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
上述のとおり、MPの高精度起源解析に関する研究と、フィールド調査を並行して進める。前者は、従来の有機系添加剤に加えて、プラ製品やMPに含有する無機系添加剤に注目して研究を展開する。具体的には、ポータブルXRF装置で試料中の軽・重金属濃度を測定し、そのデータベースを構築するところから始める。 また、水圏へのプラごみやマイクロプラスチックの拡散を調べるため、国内の複数地点で採集した地下水中のMP分布と発生源解析の2つのテーマに取り組む。また、検出されるMPのポリマーの種類等から、地下水汚染に関係するMPの陸域発生源を特定する研究を展開したい。得られる知見は学会や論文だけでなく、一般市民対象の講演会や出前授業等で広く社会に発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響でフィールド調査が十分に行えなかった。このため、本研究を1年間延長して実施する。
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