研究課題/領域番号 |
19K12385
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
齋藤 利晃 日本大学, 理工学部, 教授 (50277381)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 亜酸化窒素 / アンモニア酸化細菌 / mRNA / 一酸化窒素 |
研究実績の概要 |
前年度の結果を踏まえて,2年目は当初予定の一酸化窒素添加の影響を調べるとともに,各機能遺伝子転写量の変動要因を探るべく研究を行なった。当初予定通り,通常運転における亜酸化窒素の生成と関連する酵素の遺伝子転写量の測定を行った上で,曝気前に窒素散気を行ったのちに曝気を行った系と,窒素ベースの一酸化窒素散気を行ったのちに曝気を行った系を用意し,亜酸化窒素の生成と関連する酵素の遺伝子転写量の変動を調べた。 アンモニア酸化は窒素散気後の曝気において減少し,一酸化窒素散気後は若干増加する結果が得られた。亜酸化窒素の生成も窒素散気後および一酸化窒素散気後にいずれも低下したが,前者は特にアンモニア酸化の低下を要因とするもので,転換率は変化しなかった。一方,一酸化窒素散気後の亜酸化窒素転換率は低下する結果であった。 調査を行なったamoA,nirKおよびnorBの転写量は,いずれも曝気工程中に上昇し,窒素や一酸化窒素を散気した際に減少するものの,引き続く曝気時には上昇するという似た変化を示した。一方,変化量には機能遺伝子間で大きく異なり,nirKの変化が他に比べて極めて大きく,変化量の大小は,nirK > norB > amoAの順であった。特に,窒素散気後のnirK転写量の増加は極めて大きく,一酸化窒素を生産することによりアンモニア酸化を,いずれも減少し,その後の好気条件下で大きく増加した。 以上の結果から,窒素散気によりアンモニア酸化が低下した際にnirK転写量が著しく増加するとともに,一酸化窒素散気後はnirK転写量の増加が抑制され,かつ亜酸化窒素転換率が抑制されたことから,当初想定していた仮説が機能していると推察された。今後は,同様の実験を繰り返して再現性を確認するとともに,溶存酸素濃度や亜硝酸濃度を変化させた条件において,仮説が成立することを確認していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度に培った分析技術と通常サイクルにおけるアンモニア酸化細菌の挙動や関連する酵素の遺伝子転写量の結果を踏まえ,2年目は,申請時の研究計画通り,一酸化窒素の散気など条件を変更した際の応答を調べることとした。しかしながら,コロナ禍にあって実験室への入室が制限させたこともあり,実験装置の管理が思うようにいかず,微生物活性の安定に時間を要した。そのため,実験条件を様々に振ってその結果を解釈することができず,限られた実験結果にとどまった。また,申請時は,溶存一酸化窒素の測定を電極法により行うことを予定していたが,海外輸入品で納品に時間を要することに加え,その後の調査から十分な精度での測定が困難であることが予想されたために入手を諦め,測定を行わずに外部からの投入のみによる評価にとどまっている。そのため,十分に満足できる成果とは言えず,進行としては遅れていると言わざるを得ないが,一方で,限られた回数ながら実験は制御された環境で問題なく実施され,当初想定していた仮説を反映した結果が得られるなど,今後の進展については問題ないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2年目に,実験の機会を十分に得ることができなかったことから,最終年度は,前年度の結果の再現性を確認するとともに,一酸化窒素散気の条件を変更して仮説の検証を確実に行いたいと考えている。その上で,当初計画通りに溶存酸素濃度や亜硝酸濃度を変化させ,各関連する酵素の遺伝子転写量の変化を追うことで,仮説を利用した新しい亜酸化窒素生成抑制運転手法の確立に繋げていきたいと考えている。 最終的な制御につながる数理モデル化のための一番の課題は溶存一酸化窒素濃度の測定である。現在,電極法に代わる手法を検討しているが,間に合わない場合には,酸素を排除した状態で気液平衡状態を作り出し,気相中の一酸化窒素をガスクロマトグラフ質量分析計により測定することを考えている。
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