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2019 年度 実施状況報告書

付着共存微生物由来物質による海藻代謝変動とその水圏環境浄化への利用の研究

研究課題

研究課題/領域番号 19K12386
研究機関日本大学

研究代表者

垣田 浩孝  日本大学, 文理学部, 教授 (40356754)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワード海藻 / 水圏環境浄化 / 海洋資源 / 植物
研究実績の概要

すでに提案者らは環境浄化生物として有用な非成熟性オゴノリ科海藻を見出し、微生物由来物質であるインドール-3-酢酸(indole-3-acetic acid: IAA)の添加による海藻成長量と栄養塩吸収量の上昇を見出している。本研究初年度に当たり、非成熟性オゴノリ科海藻保存株を他の5種類のオゴノリ科海藻株(2種類のツルシラモ株と3種類のオゴノリ株)と成長量、成熟性、有用物質生産量を比較し、非成熟性オゴノリ科海藻保存株が成長量と有用物質生産量が他の5種より有意に高く、かつ非成熟性(12週間の培養実験)であることを明らかにした。他の5種類の株は培養12週以内に成熟した。有用物質量としてはヘマグルチニン量を用いた。この結果は、高成長量、有用物質高生産量、非成熟性はオゴノリ科海藻全般の性質ではなく、非成熟性オゴノリ科海藻保存株に特有の性質であることを明らかにし、環境浄化海藻として本研究で非成熟性オゴノリ科海藻保存株を選択していることの正当性を支持する点で重要である。次に非成熟性オゴノリ科海藻株とオゴノリ科海藻オゴノリ株の成長量とタンパク質含有量へのIAA(0 mg/L~0.32 mg/L)の影響を比較した。IAA 0.16 mg/Lで非成熟性オゴノリ科海藻保存株の成長量とタンパク質含有量は他のIAA濃度での条件に比べて有意に高くなったが、オゴノリ科海藻オゴノリ株では成長量およびタンパク質含有量へのIAA濃度の有意な影響は観察されなかった。また、代謝酵素であるアルドラーゼの活性量を比較したところ、IAA 0.16 mg/Lの条件で非成熟性オゴノリ科海藻保存株のアルドラーゼ活性が有意に高くなるが、オゴノリ科海藻オゴノリ株で同活性の有意な差は検出されなかった。以上の結果は、IAAが非成熟性オゴノリ科海藻保存株に特異的に影響を与えていることが示唆された点で重要な意味がある。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究全般を通じて環境浄化生物として紅藻類大型海藻である非成熟性オゴノリ科海藻保存株を継続して培養を行い使用する。当該株は瀬戸内海水域(河川域含む)で採取した海藻から単藻培養株作成中に偶然得られた株である。初年度である今年度は、当該非成熟性オゴノリ科海藻保存株と他の5種類の瀬戸内海水域で採取したオゴノリ科海藻との比較実験を行い、高成長量、有用物質高生産量、非成熟性はオゴノリ科海藻全般に共通の性質ではなく、当該非成熟性オゴノリ科海藻保存株に特有の性質であることを明らかにできた。当該非成熟性オゴノリ科海藻保存株の環境浄化生物としての有用性を支持する結果を得られた点で有意義であった。今年度も当該株の培養を継続でき、当該株由来の海藻切片を実験材料として使用することができた。当該非成熟性オゴノリ科海藻保存株は単藻培養株である。単藻培養株とは藻類としてたった1種しか含まない状態になった培養株のことであり、実験材料としては個体差が少なく、混入物が少ない点で優れている。さらに非成熟性であるために、成熟や成熟後の枯死が起こらないため水質浄化への活用に利点がある。
初年度の予定にある項目、海藻タンパク質へのIAAの影響、に関する実験を行った。非成熟性オゴノリ科海藻保存株とオゴノリ科海藻オゴノリ株の成長量、タンパク質含有量、代謝酵素活性量に対するIAAの影響を比較した。オゴノリ科海藻オゴノリ株はIAAによる有意な影響は検出されなかったが、非成熟性オゴノリ科海藻保存株ではIAAの有意な影響が検出され、IAAが非成熟性オゴノリ科海藻保存株に特異的に影響を与えていることが示唆された。非成熟性オゴノリ科海藻保存株の付着共存微生物がIAA生産能を有する細菌が属するFlavobacteriaceae科微生物であることを考慮すると非常に興味深い結果である。
以上の成果が得られたことから区分(2)と判断した。

今後の研究の推進方策

実施計画の予定にしたがって、研究を以下のように実施予定である。第2年目である令和2年度は引き続き非成熟性オゴノリ科海藻保存株(単藻培養株)を本研究実施期間全般にわたって使用可能にするために、当該海藻保存株の維持培養を継続する。培地交換は約2週間毎とし、維持培養の海藻湿重量の調節は約1か月ごとに実施する。当該非成熟性オゴノリ科海藻保存株のタンパク質含有量等の代謝変動への微生物由来物質等(IAA等)の特異的影響を明らかにするためには他のオゴノリ科海藻培養株との比較実験が必要である。そのため、新規にオゴノリ科海藻オゴノリ株、ツルシラモ株の単藻培養株を人工培養により実験に使用できる量まで培養する。当該非成熟性オゴノリ科海藻保存株と他のオゴノリ科海藻培養株でのタンパク質含有量等の代謝変動への微生物由来物質等(IAA等)の影響を比較する。第2年目はIAAと微生物の同時添加、あるいはIAAと他の植物成長因子等の添加や同時添加による海藻タンパク質の変動を調べる。電気泳動(SDS-PAGE等)あるいはLC-MS/MS等を用いて網羅的に解析する。IAA添加により活性化される代謝経路と酵素等(ヘマグルチニン、酵素等)に関する情報(酵素タンパク質の検出情報)を獲得する。高発現酵素、重要な代謝酵素の一つであるアルドラーゼ、栄養塩吸収の重要な酵素の一つである窒素代謝酵素等の酵素の活性測定も実施する。酵素の基質、生成物、他の代謝物質に関してはLC(HPLC)あるいはGC-MS等での分析を行う。それとともに、増殖海藻湿重量、栄養塩吸収量、有用物質生産量等の各測定を実施する。

次年度使用額が生じた理由

(理由)試薬に関して想定していた金額よりも見積額の方が低かったため当該金額が生じた。
(使用計画)次年度以降の研究において、消耗品の試薬の購入費に充てることにより、有効に使用する予定である。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Suitable unialgal strains of Gracilariopsis chorda and Gracilaria vermiculophylla for hemagglutinin production2020

    • 著者名/発表者名
      Hirotaka Kakita, Naoki Yanaoka, Hideki Obika
    • 雑誌名

      Journal of Applied Phycology

      巻: - ページ: -

    • 査読あり
  • [学会発表] コンブ部位によるアルギン酸含有量とタンパク質含有量の変動2020

    • 著者名/発表者名
      平賀捷悟、山田将也、関憧平、四ツ倉典滋、垣田浩孝
    • 学会等名
      日本農芸化学会2020年度大会
  • [学会発表] 5種類の褐藻類大型海藻抽出液のヒアルロニダーゼ阻害活性2020

    • 著者名/発表者名
      有本清也、高崎隆平、垣田浩孝
    • 学会等名
      日本農芸化学会2020年度大会
  • [学会発表] オゴノリ科海藻の赤血球凝集活性に及ぼす培養水温の影響2020

    • 著者名/発表者名
      垣田浩孝、有本清也、音泉良太、三澤彩香
    • 学会等名
      日本農芸化学会2020年度大会
  • [学会発表] Tke evaluation of a red alga, Gracilariopsis chorda as a biofilter2019

    • 著者名/発表者名
      Hirotaka Kakita, Hideki Obika, Yoshio Okuyama, Yoshiaki Takahashi
    • 学会等名
      Water and Environment Technology Conference 2019 (WET2019)
    • 国際学会
  • [学会発表] 紅藻類オゴノリ科大型海藻のタンパク質含有量へのインドール3酢酸の影響2019

    • 著者名/発表者名
      垣田浩孝、小比賀秀樹
    • 学会等名
      第92回日本生化学会大会
  • [備考] 日本大学文理学部化学科ホームページ

    • URL

      http://dep.chs.nihon-u.ac.jp/chemistry/

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公開日: 2021-01-27  

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