研究課題/領域番号 |
19K12387
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
塩月 雅士 東京都市大学, 工学部, 准教授 (30362453)
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研究分担者 |
岩村 武 東京都市大学, 工学部, 准教授 (10416208)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自立膜 / ポリピロール / ポリフラン / ポリチオフェン / 気体透過 / 気体選択 / 選択的気体透過膜 |
研究実績の概要 |
当該年度は,本研究の基盤材料となる塩基性高分子膜材料の開発を中心に研究を進めた.計画に挙げたポリイミンの合成法として,シアノ基の連鎖付加重合を試みたが膜形成可能な高分子量のポリマーが得られなかった.もう一方の手法となる塩基部位含有化合物の高分子化について従来のポリピロールの化学重合法を拡張することにより,ピロール由来の高分子にきわめて高い物理強度を付与することができ,屈強な高分子膜が得られることを見出した. 従来,ピロールの重合には電極上での酸化重合,すなわち電解重合が広く用いられているが,一方,化学重合としてピロールに酸化剤を作用させる重合方法が知られていた.しかしながら,酸化剤により得られる膜は通常物理強度が低く,気体分離膜として扱えるものは見出されていなかったため,当該年度の検討の中で酸化剤の種類と量を種々検討したところ,最終的にポリピロールをはじめとする種々の複素環モノマーを高分子膜化することに成功した.適用可能なモノマーとしては,窒素以外の元素を含む複素環化合物の他,アルカナールなどのアルデヒド化合物を実際に試みいずれも高分子膜を得ている. これらの膜の分子構造を明らかにするための低分子モデル反応として,重合度を抑制するモノマー類似体を用いて検討した.複素環モノマーの反応部位に置換基を導入した類似体を用いた場合,複素環が炭素-炭素の単結を形成し,同時に一方の複素環構造が飽和となることを明らかにした.例えば,チオフェンの誘導体を用いた際には芳香族への求核反応を経てチオフェンが2量化した付加化合物が得られた.その詳細な構造を単結晶X線構造解析により明らかにした.以上により,重合メカニズムの根拠となる素反応を解明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り塩基性膜を得ることができており,研究はおおむね順調に進行していると言える.本研究において見出した膜合成法は,ピロール他,種々の複素環化合物を原料として多様な膜を合成する技術となり,気体分離膜を目的とした材料合成以外にも導電性材料や発光材料などにも適用できる用途の広いものである. 研究当初に挙げた塩基性高分子材料の合成は多数のシアノ基の付加重合であったがこれ自体では膜成形に耐えうる高分子を合成するに至らなかった.この点が当初予定と異なっている点ではあるが,シアノ基は連鎖重合部位としてではなく,他の化合物からの付加反応を受容する逐次重合部位として用いることで今回見出した膜合成法を適用することが可能と考えられる. 合成した塩基性膜の気体透過測定については,一部のみ測定に成功しているが,塩基性膜については測定条件下で脆化することが明らかになっており,これを今後の課題としている.
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今後の研究の推進方策 |
開発した手法により現状で複数種の塩基性高分子膜を得たが,それらの気体透過測定を試みたところ測定に必要な真空雰囲気下において膜が脆化する現象が見られた.これにより,実際に気体透過測定を実施できたサンプルは少ない状況にある.今後はこの脆化の原因を解明したうえで,対策を検討することが必要となる.これまでに明らかになったことは,膜サンプルは真空下に置くと膜辞退が収縮すると同時に柔軟性を失うという事実である.通常,多数の極性官能基を有する膜は空気中の水分を含み膨潤するが,本研究で得た膜サンプルも同様な状態にあると推測しており,乾燥に強い膜合成に加え,水存在下での気体透過測定を今後進めていく予定である。 膜材料となる高分子の多様化についても今後推進していく.具体的には,複素環以外の化合物を膜の原料モノマーとする系を新たに考案し,特に複素環モノマーとの共重合を進められるような組み合わせを検討する.本研究で見出したピロール類をはじめとする複素環モノマーの重合は,複素環モノマーの求核攻撃に基づくものであり,結果として付加重合を素反応として重合が進行することを明らかにしている.すなわちこの系においては複素環モノマーは求核剤と求電子剤の両方の役目を担っていると言え,この点に着眼すると,共重合可能なモノマーとしてはより求電子性あるいは求核性に優れた化合物を用いることが考えられる.すでにアルカナールを始めとするアルデヒド化合物をコモノマーとした重合系を検討しており,対応する高分子が得られることまでを明らかしたが,今後はより多様なコモノマーとの組み合わせを検討することで得られる高分子の物理特性を改善していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していたガスクロマトグラフィー分析装置について,研究室が所有していた一部部品を用いることで同装置の設置費用を抑制することができたことが理由である.これにより生じた差額により,本年度はその他の分析装置と合成装置の購入を検討している.具体的な装置例としては,紫外可視吸収スペクトル測定装置と恒温重合装置が挙げられる.前者は重合の進行度を測るため,後者は重合速度の制御に利用するものである.
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