当該年度は、本研究の基盤材料となる高分子膜の分子構造の解析とそれに基づく用途展開について検討を行った。かねてからポリピロールとその誘導体、および自立膜の形成については機能性膜は形成されるものの、その分子構造は多くの部分が不明であった。まず燃焼法による元素分析の結果から、膜中にはモノマーのPyrroleに含まれていない酸素原子が多く含まれていることが判明した。酸素原子がどのような結合でPolypyrrole膜中に存在しているのかを判断するためXPSのナロースキャンから、カルボニル基あるいはヒドロキシ基が含まれることが示唆された。後者の官能基は、膜形成後に酸触媒を取り除くために用いた塩基(NaOH)により酸エステル部位が加水分解して生成したものと考えられ、一方のカルボニル基はヒドロキシ基の酸化によるものと考えている。 このような特異構造を有するピロール膜のさらなる用途展開として、イオン電導膜への応用を検討した。ピロールの窒素部位を4級化することでポリマー膜中に多数のカチオン部位を形成し、これに対するアニオンをOH-とすることでそのアニオンの輸送材料とする試みである。実際にはPyrroleからなる膜ならびにN-Methylpyrroleからなる2つの自立膜を合成し、それぞれの分子構造中のN原子を4級化した膜とし、アニオン電動性を測定した。膜中の窒素部位の4級化に成功したことはIRスペクトルなどで明らかにしたが、実際のアニオン伝導率は10^-5 S cm-1オーダーとなり、一般的なアニオン電動膜に比べて低い値を示した。 まとめとして、本研究では高い気体分離性能の開発に着手し、実際に複素環モノマーの付加重合により高性能・高機能で自立可能な気体分離膜を得ることに成功した。以後の発展については気体分離能以外の機能についても発展の余地があり、引き続き検討を重ねていく予定である。
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