研究課題/領域番号 |
19K12388
|
研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
稲葉 一穂 麻布大学, 生命・環境科学部, 教授 (60176401)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 鉄修飾型吸着剤 / 表面分析 |
研究実績の概要 |
先行研究で開発したヒ素吸着剤の吸着条件の最適化を目指して、吸着剤の鉄修飾層の安定性評価を行った。先行研究と同じ条件で合成した吸着剤を純水で撹拌洗浄を繰り返し、吸着剤表面の鉄修飾量の変化を簡易型エネルギー分散型X線分析装置を使用して比較測定した。表面の鉄修飾層は機械的な衝撃に脆弱で、撹拌回数に応じて減少していくことが明らかとなった。この洗浄済み吸着剤によるヒ素吸着能力を測定したところ、洗浄回数の少ない鉄修飾層の大きな吸着剤ほどヒ素を多く吸着できることが明らかとなった。 これらの吸着実験により得られた吸着剤試料を用いて、極低加速電圧操作電子顕微鏡(ULV-SEM)とエネルギー分散型X線分光器(EDX)による詳細な表面状態の比較検討を行った。その結果、ヒ素を吸着させた吸着剤のULV-SEM測定では反射電子像でやや明るいコントラストを示す数100nm程度のごく薄い層が見られた。この層は基部に較べてFeやOが強く検出されたことから、鉄修飾層と考えられた。この鉄修飾層の広がりの大きさは、2016年度に同様の測定を行った際の吸着剤に較べて小さかった。これは吸着剤合成時およびヒ素吸着反応時の撹拌強度の違いによる剥離量の違いによるものと考えられ、激しい撹拌を必要とするバッチ式吸着は本吸着剤には不向きであることが示唆された。SEM-EDXによる吸着剤断面の元素マッピングでは、基材部では主としてCaが、表面層ではFeの強度分布が強く表れていること、ヒ素吸着済み吸着剤では表面層にFeと共にAsも検出され、本吸着剤によるヒ素の除去反応は鉄とヒ素による相互作用が関与していることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本吸着剤によるヒ素吸着の最適化(サブテーマ1の1): 先行研究と同じ条件で合成した吸着剤を純水で撹拌洗浄を繰り返し、吸着剤表面の鉄修飾量の変化をエネルギー分散型X線分析装置を使用して比較測定し、吸着剤の鉄修飾層の安定性評価を行った。表面の鉄修飾層は機械的な衝撃に脆弱で撹拌回数に応じて減少していくこと、この洗浄済み吸着剤によるヒ素吸着能力は洗浄回数の少ない鉄修飾層の大きな吸着剤ほどヒ素を多く吸着できることが明らかとなり、初年度の目標とする吸着の最適化の基礎的な情報は充分に入手できた。 表面分析による吸着剤の評価(サブテーマ1の2): サブテーマ1の1で作成した様々な吸着剤試料について、簡易型EDXによる吸着剤表面の半定量分析を行い、本吸着剤の吸着能力に関係する構造についての予備知識を入手できた。さらにこれを基にJFEテクノリサーチ社との共同測定を行い、吸着剤の深さ方向の詳細分析を行った。これらの結果から、初年度の目標である吸着剤の構造に関する情報を充分に入手することができた。 ヒ素吸着済み吸着剤の処理処分方法(サブテーマ2): 初年度には特に検討を行わなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度に実施したサブテーマ1の1および1の2の結果から、吸着剤の機械的衝撃への耐久性を高める方法の検討を開始する。現在考慮している方法としては、機械的な衝撃を避けることの難しいバッチ法による吸着操作から、ゆっくりとした水流で衝撃を防ぐことのできるカラム法へと切り換えた場合の安定性を検討すると共に、機械的な衝撃に耐えられるような方埋加工法を導入することなどを検討していく予定である。 サブテーマ2については、サブテーマ1でヒ素を吸着させた使用済み吸着剤が集積した時点で、様々な液性の溶液への浸潤試験を開始する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度においては、サブテーマ2について基本的な実験方法の検討を開始する予定であったが、サブテーマ1により回収するヒ素吸着済み吸着剤の量が少なく、実験開始まで進むことができなかった。このため、初年度はサブテーマ2の遂行を断念し、実験機材の調達を見合わせたために差額が生じたものである。 2020年度にはサブテーマ2および総括の実験についても予定通り実施の予定であり、見合わせていた機材の購入を開始することで差額は解消可能である。
|