研究課題/領域番号 |
19K12399
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
大渡 啓介 佐賀大学, 理工学部, 教授 (70243996)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | レアメタルリサイクル / 溶媒抽出 / 抽出剤開発 / 選択性 / 分子設計 / 弱い相互作用 |
研究実績の概要 |
「都市鉱山」からの有価金属の回収を目的として、金属アニオンと弱い相互作用を示す2級アミド化合物のアミドプロトンのδ+性に着目し、種々の2級アミド化合物を合成し、塩酸媒体下での様々な貴金属アニオンの抽出挙動について検討することを目的としている。N-2-エチルヘキシルアセトアミド(AA)のアセチル水素原子をフッ素(TFAA)、塩素(TCAA)、臭素(TBAA)に置き換えたN-2-エチルヘキシル-2,2,2-トリハロゲン化アセトアミドや2-エチルヘキシル鎖を2本有しメチレンスペーサー長の異なるジアミド化合物であるプロパンジアミド(C1)、ペンタンジアミド(C3)、ヘプタンジアミド(C3)を合成している。AAおよびTFAAでは3価のFe、Al、In、2価のZn、Cd、Mn、Co、Ni、CuからのGaの選択的抽出を行い、塩酸濃度の高い領域で非常に高いGa選択性を確認した。また、スロープ解析や分光分析をすることで、AAではGaと1:1錯体を、TFAAでは2:1錯体(Ga:TFAA)を形成することが分かった。また、TFAAによるGaイオンの抽出は対イオンとしてのヒドロニウムイオンがフッ素原子と相互作用を持つことで安定化され、もう1つの水素原子のδ+性がより高まる、いわゆるアロステリック効果によって2つ目のGaイオンの抽出が起こっていると判断した。現在、TCAAやTBAAについても検証を行っている。また、メチレンスペーサー長の異なるジアミド化合物を用いて白金族の抽出についても検討を行っている。C3は明らかにPtに対する抽出能力が高かったが、共存するアニオンの影響も強く受けているようであり、現在検証中である。このように合成したアミド化合物はいずれも塩酸溶液中で金属アニオンに対して興味深い抽出挙動を示すことが明らかとなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前述のように、TFAAによるGaイオンの抽出は対イオンとしてのヒドロニウムイオンがフッ素原子と相互作用を持つことで安定化され、もう1つの水素原子のδ+性がより高まる、いわゆるアロステリック効果によって2つ目のGaイオンの抽出が起こっていることを明らかにした。このように分子内の金属配位官能基を補助する形で導入したハロゲン原子が抽出に寄与する挙動はこれまでの一般的な抽出試薬による抽出概念を大きく変える新たな発見である。また、TCAAではRhに対する抽出選択性が観られており、同様にRhと塩素原子の相互作用が寄与している可能性があると考えている。現在、検証中である。また、酸素や硫黄原子を中間に有するジグルコールアミド化合物とは異なり、2つのアミド基が単純にメチレン鎖で結合した一連のジアミド化合物による金属イオンの抽出は検討されておらず、重要な研究報告となる。3つのジアミド化合物は塩酸濃度の変化の伴うアミド水素やカウンターイオンとしてのヒドロニウムイオンの1H-NMRスペクトルを検証することでプロトネーションの挙動については類似していることが明らかとされたが、白金族の抽出挙動は全く異なる。C1やC5と異なりC3が白金アニオンに対して高い抽出能力を有していることは明らかとなり、白金アニオンの大きさに適合したスペーサーを有することは分かったが、これらのジアミド化合物は様々なアニオンとも相互作用を示す可能性があることが示されている。一連のアミド化合物について検証を行っているが、次々に興味深い結果が示され、その多くは予想を超えたものであり、多くの発展的研究につながっている。実用的にも重要な結果が得られているが、学術的にも貴重な情報が得られていると考えている。以上のことから当初の計画以上に進展している、と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
N-2-エチルヘキシル-2,2,2-トリハロゲン化アセトアミドから派生し、ハロゲンの種類、数や位置を変化するなど多くの化合物についての検証、またジアミドもジカルボン酸からではなくジアミンからの合成を行うなど、化合物の合成だけでも数多く行うべきことが新たに見いだされている。これらの化合物については、塩酸濃度の変化の伴うアミド水素やカウンターイオンとしてのヒドロニウムイオンのピークを1H-NMRスペクトルを用いて検証することでpKaを求めることが可能であると考えられ、プロトネーションが起こらない塩酸濃度領域で金属アニオンの抽出挙動を検証する予定である。また、ジアミドにハロゲンを導入することで低下した抽出能力を官能基数でカバーすることも考えている。これも同様にpKaを求め、塩酸媒体で金属アニオンの抽出挙動を検証する予定である。また、上述のように硝酸イオン、過塩素酸イオン、シュウ酸イオンなどアニオン、特に2座になりうるアニオンの影響が否定できないので、これらのアニオン濃度を変化させた抽出挙動についても検証も行う予定である。Gaの抽出についてはTCAAとTBAAについてのデータも取得中である。カルボニル酸素原子の影響を受けずに、上手にアミドプロトンのδ+性を利用し、またこれらのアニオンをマスキング剤として利用することにより、より高い選択性を示す試薬の開発が可能になると思われる。そのためにDFT計算などでカルボニル酸素原子とアミドプロトンの電子密度を求め、試薬の抽出能力とpKaと電子密度との相関についての考察などについても検証を進める。また、実用的な観点から実廃液を用いた分離・回収にも取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費を計上したが出張することがなく、逆に研究の進展は大きかったため、物品費は大幅に増えた。前年度の繰り越しが多かったために、13,026円の繰り越しとなっているが、研究も予算執行も順調である、と判断している。次年度も出張は厳しいと思われるが、研究の展開があり、物品費で使用させていただくと思う。
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