本研究では、H. elongata が高塩濃度下で優先的にエクトイン(ECT)を生合成するための鍵となるアミノ酸(AA)代謝制御機構を解明することを目的とした。特に本研究では、ECT生合成系を欠失したH. elongata KA1株を親株として、ECT以外のAA類が過剰蓄積した突然変異株を選抜し、変異遺伝子が関与するECT生合成に最適化されたAA代謝制御機構を解明して応用することにより、廃バイオマス中のC・N源をECT等の機能性AA類に再資源化するリサイクルバイオ技術の基盤を構築することを目的とした。 H. elongata OUT30018株を細胞工場とすることにより、廃棄バイオマスとして、鶏糞や醤油粕の加水分解物や不揮発性腐敗アミンであるヒスタミンやチラミンからECTを生産できることが明らかとなった。また、H. elongata OUT30018株のectDとdoeAを両方欠失した変異株においてECTの生産性が向上することが示された。 次世代シーケンサを用いて、H. elongata OUT30018株とGOP株との全ゲノム配列の比較解析を行った結果、ECTの代わりにグルタミン酸(Glu)を過剰蓄積できる自然突然変異株のGOP株ゲノム上における点変異部位を複数同定した。しかしながら、点変異の挿入箇所にGluの生合成や分解に関与することが示唆される代謝関連遺伝子を発見することはできなかった。そこで本研究では、ECTの代わりにGlu以外のAAが過剰生産できるか検討した結果、Glu脱炭酸酵素(GAD)システムの導入により、浸透圧調節物質としてGABAを生産するH. elongata 細胞工場の開発が可能であることが示唆された。今後は、ECTを代表とするアスパラギン酸系のアミノ酸類以外にも、Glu系アミノ酸類を生産するH. elongata細胞工場の開発研究の発展が期待できる。
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