研究課題/領域番号 |
19K12408
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
山田 真路 岡山理科大学, 理学部, 教授 (80443901)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DNA / バイオプラスチック / 生分解性プラスチック / 生体高分子 / 環境材料 / 分子架橋 |
研究実績の概要 |
近年、海洋中のマイクロプラスチックが世界的な問題になっている。このようなマイクロプラスチックの大部分は石油由来であり、自然界では分解されない。そのため、海洋に長時間浮遊し、食物連鎖を介して人間に蓄積されると考えられている。この問題を解決する方策の一つとして生体高分子のプラスチック化がある。生体高分子は生分解性を有する高分子が多いため、生体由来分子からなるプラスチックを創製することが出来れば、マイクロプラスチックによる海洋汚染は軽減できると考えられる。そこで、本課題では生体高分子の1つであるDNAに注目し、DNAを用いた生分解性バイオプラスチックの創製を試みた。 当研究課題「サケ白子DNAを用いた生分解性バイオプラスチックの創製」は昨年度の成果としてホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリオキサール等の様々な架橋剤を用いDNAバイオプラスチックを作製したところ、ホルムアルデヒドが架橋剤として最も優れていることが示唆された。更に、DNAプラスチックの力学的物性を評価したところ1本鎖DNA(分子量100万程度)より二重らせんDNA(分子量500万以上)の方が良い結果を示し、市販のポリエチレン(PE)とほぼ同等の力学的強度(約18 MPa)を示した。そこで、2年目は当初の計画通り、二重らせんDNAを用いたDNAプラスチックのIR測定から構造を更に詳しく評価した。加えて、一部で良いDNAプラスチックが出来たため、架橋剤の濃度を変えたDNAプラスチックを作製しDNA分解酵素(Micrococcal nuclease)を用いた生分解性評価も試みた。更に、これらのDNAプラスチックは水に浸漬することで水膨潤性が見られたため、目視による生分解メカニズムの評価も試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の成果からDNAペレットを架橋剤溶液に一定時間浸漬することでDNA架橋体が生成することが示された。また、DNAとホルムアルデヒドが反応することでメチレン架橋を形成することも示唆された。今年度は、IRを用い更に構造を評価した。その結果、ホルムアルデヒド濃度が高くなるに従い、C-N伸縮振動に由来するシグナルが大きくなるとともに、1220 cm-1付近のリン酸基に由来するシグナルが10 cm-1ほど高波数側にシフトすることが示された。一般的に、疎水環境下で得られるA-DNAのリン酸基に由来するシグナルは水環境下で得られるB-DNA(一般的なDNA構造)のリン酸基に由来するシグナルより、高波数側に現れることが知られている。これらのことから、ホルムアルデヒドの濃度が高くなるに従い、DNAの構造はB-DNAからA-DNAの構造に変化していることが示された。これらのことから、DNA架橋体はホルムアルデヒド濃度が高くなるに従い、より水安定化していることが示唆された。 次に、得られたDNA架橋体の生分解性をDNA分解酵素(Micrococcal nuclease)を用いて評価した。その結果、4 units/mlの酵素を用いた場合は、144時間で10%程度分解したが、40 units/mlの酵素を用いた場合は48時間で90%以上分解した。更に酵素量が同じ10 units/mlで比較したところ、25%ホルムアルデヒドを用い作製した架橋体は96時間で約90%分解されたが、30%ホルムアルデヒドを用いた架橋体は、144時間でも10%未満であった。このことから、用いる架橋体の濃度によりDNA架橋体の生分解性を制御できることが示唆された。また、DNA架橋体の生分解メカニズムを目視により評価したところ。架橋体にクラックが入ると生分解が急速に進むことが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況にも記したが、2020年度の計画はほぼ当初の予定通り進行した。ただし、新型コロナウイルス感染症関係で、大学への入校が制限されるなどしてDNA架橋体作製時の結果をフィードバックして次回の架橋体作製時に活かすことが出来なかった。そこで、2021年度は2020年度に十分に検討できなかったDNA架橋体の作製条件の最適値を見つけたいと考えている。特に架橋体の生分解性評価を中心に行いたいと考えている。更に、現在までの研究でDNA架橋体はDNAの核酸塩基のアミノ基とホルムアルデヒドがメチレン架橋を介して水安定化することが示唆されている。二重らせんDNAの場合、らせんの外側にリン酸基とリボースが存在しており、内側に核酸塩基が存在している。そのため、この核酸塩基のアミノ基とホルムアルデヒドが効率的に反応することは難しい。(昨年までの結果として、水溶液中で二重らせんを解離した後、反応させる方法ではプラスチックを作製出来ないことが示されている)そこで、2021年度はRNAを用いて架橋体を作製したいと考えている。RNAは二重らせん構造の一部がすでに崩壊しており、一部の核酸塩基が溶液側を向いている。そのため、より効率的にホルムアルデヒドと反応することが期待される。ただし、RNAは本研究で用いている二重らせんDNAと比較すると圧倒的に分子量が少ない。そのため、その低い分子量も考慮する必要があると考えられる。 2021年度は当研究課題の最終年度になるが、新型コロナウイルス感染症関係で先を見通すことが出来ない。ただし、最低限としてDNAからなる架橋体とRNAからなる架橋体を比較したい。更にDNAおよびRNA分解酵素(ヌクレアーゼ)を用いた生分解性の比較や力学的特性等の比較をすることで最も環境に優しい核酸プラスチックの作製を目指したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関係で参加予定の学会が中止になったため、次年度に繰り越しました。 【使用計画】 繰越金は翌年度経費と合算し、試薬および消耗品費を購入する予定です。
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