研究課題/領域番号 |
19K12410
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
井上 宏之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (10356503)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脂肪族ポリエステル分解 / タラロマイセス・セルロリティカス / プラスチック分解処理 / セルラーゼ生産糸状菌 / エステラーゼ / ポリカプロラクトン / ポリヒドロキシ酪酸 |
研究実績の概要 |
本研究では、植物分解性の糸状菌が本来備えているポリエステル分解システムを解明し、その機能をベースにしたプラスチック分解処理の基盤技術を開発することを目的としている。高いセルラーゼ生産能を有するTalaromyces cellulolyticusを対象に、セルロースを炭素源として誘導分泌されるタンパク質群の中から、ポリエステル分解酵素の探索を行った。また、脂肪族ポリエステルを炭素源とした場合のポリエステル分解酵素の誘導についても検討した。 セルロース炭素源とした培養上清液から、酸性域においてポリカプロラクトン(PCL)を分解する活性が確認され、T. cellulolyticusの酸性エステラーゼが本活性に関与していることが予想された。培養液中に分泌されたタンパク質群のプロテオーム解析から、複数の推定エステラーゼが見いだされた。これらの酵素遺伝子をT. cellulolyticus のゲノム情報に基づきクローニングし、T. cellulolyticusのホモロガス発現系を用いて組換え酵素を調製した。各組換え酵素のPCL分解活性を評価した結果、少なくとも2種類の機能未知なエステラーゼにおいて分解活性が見いだされた。 他方、種々の脂肪族ポリエステルを炭素源として得られた培養液を評価した結果、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)を用いて得られた培養上清液において、酸性域において、PCLおよびPHB分解活性が確認された。一方、中性域においてはPHBのみに分解活性が観察された。これらの結果から、T. cellulolyticus は、炭素源の違いによって、異なるタイプのポリエステル分解酵素を誘導することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で予定していた糸状菌によるプラスチック分解に関与するタンパク質群の探索と同定を進めている。セルラーゼ生産糸状菌T. cellulolyticusが、セルロースおよびPHB誘導性の多様なポリエステル分解酵素を生産することを明らかにし、糸状菌ポリエステル分解システムの解明のための足がかりが得られた。プロテオーム解析ならびにゲノム情報を用いてポリエステル分解活性を有するエステラーゼ遺伝子の一部を同定するなど、研究は計画に沿って概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本糸状菌は、予想以上に多様なポリエステル分解酵素を生産していることが明らかとなり、引き続き、タンパク質群の探索を行う。具体的には、PHBによって誘導されるポリエステル分解酵素を同定するために、培養上清液のプロテオーム解析から得られた全ての推定エステラーゼに関し、ポリエステル分解活性を指標に評価する。加えて、糸状菌のポリエステル分解システムに関与するタンパク質の情報を幅広く取得するために、ポリエステル分解活性に加え、ポリエステル結合活性を指標にしたタンパク質群の探索にも着手する。今年度見出されたPCL分解活性を有するセルロース誘導性の新規な酸性エステラーゼは、精製し、機能解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況に伴い、予定していたタンパク質の同定解析に係る実験を変更したため、それに相当する未使用額が生じた。次年度の実験計画に伴い、本来の予定であるタンパク質の同定解析に対してそれを使用する。
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