本研究では、植物分解性の糸状菌が本来備えているポリエステル分解システムを解明し、その機能をベースにしたプラスチック分解処理の基盤技術を開発することを目的としている。高いセルラーゼ生産能を有するTalaromyces cellulolyticusを対象に、セルロースおよび脂肪族ポリエステルを炭素源として誘導分泌されるタンパク質群の中から、ポリエステル分解酵素の探索を行った。 種々の脂肪族ポリエステルを炭素源として得られた培養液を評価した結果、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)を用いて得られた培養上清液において、PHB分解活性が確認された。分子量の異なる2種類のPHB分解酵素を精製し、LC-MS/MS分析によるゲル内タンパク質同定を行った結果、両酵素は同一遺伝子由来であり、Talaromyces funiculosusで同定済みのPHB分解酵素と非常に高い相同性を示すことが明らかとなった。 他方、セルロース炭素源とした培養上清液からは、ポリカプロラクトン(PCL)を分解する活性が確認され、リグノセルロース分解に関わる酵素群の関与が予想された。PCL分解酵素の精製に先立ち、PCLの分解によって生じるカルボキシル基末端を2-ニトロフェニルヒドラジンでラベル後に定量する簡易アッセイ法を確立した。本アッセイ法を用いて酵素を精製し、最終的に2種類の推定クチナーゼ及び1種類の推定ペクチンエステラーゼを同定した。さらにゲノム情報に基づいてこれらの遺伝子をクローニングし、T. cellulolyticusを宿主に用いて組換え酵素の大量生産に成功した。 本研究で同定された3種のエステラーゼは、いずれもTalaromycesにおいて初めてPCL分解活性が確認された酵素であり、今後の機能解析によって、植物分解性の糸状菌が本来備えているポリエステル分解システムの解明が期待される。
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