研究課題/領域番号 |
19K12411
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平尾 聡秀 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 講師 (90598210)
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研究分担者 |
森長 真一 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (80568262)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 植生衰退 / 植物-土壌フィードバック / 生物多様性 / 生態系機能 / 土壌微生物叢 |
研究実績の概要 |
近年、シカによる森林の植生衰退が環境保全上の大きな課題になっている。生態系修復のため各地にシカ排除柵が設置されているが、植生回復が十分進まない事例も多く、その原因として植生衰退に伴う土壌機能の低下が植生回復を阻害する負の植物-土壌フィードバック作用が提唱されている。このメカニズムとして土壌中の物質循環の変化が指摘されているが、土壌微生物叢の変化が直接的に植生動態に及ぼす影響は未解明である。そこで、本研究では、シカ柵内外で樹木実生の動態と土壌微生物叢の機能の関係を分析し、植生衰退が土壌の機能的コア微生物叢の改変を通じて生態系修復に及ぼす影響を解明することを目的とする。 2020年度は、2019年度に引き続き、植生衰退に伴って変化する機能的コア微生物叢の評価を行った。東京大学秩父演習林の標高800~1,800 mの冷温帯林において調査区(シカ排除区・対照区)からA層土壌を採取し、土壌菌類叢のアンプリコンシーケンス解析を行うとともに、窒素循環関連機能遺伝子の発現量の定量PCR解析を行った。これらのデータから、シカ柵内外で下層植生の被度・種数・遺伝的多様性の違いと土壌微生物叢の違いを比較し、植生衰退に伴う機能的コア微生物叢の劣化を評価した。また、標高1,400 m付近に位置しており、植生が同等な6ヶ所を選定し、シカ柵内外でカエデ属の当年生実生を相互に移植することによって、機能的コア微生物叢の劣化が樹木の実生動態に及ぼす効果を検証する野外実験を実施し、時系列的に採取した土壌の物理化学性状の測定と、土壌微生物叢解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、(1)シカ柵内外の植生調査と土壌分析を行い、植生衰退に伴って変化する機能的コア微生物叢を評価するために必要な基礎データを得ること、(2)シカ柵内外で土壌の相互移植を行うことによって、実生動態に対する機能的コア微生物叢の効果を検証する野外実験の準備をすること、(3)相互移植した実生動態に対する機能的コア微生物叢の効果の検証を開始することを計画していた。これらの3点については、計画通り進めることができ、研究はおおむね順調に進展しているといえる。2019年10月の台風19号によって、調査地域の森林に甚大な被害が生じ、林道の崩壊によって調査地へアクセスすることが困難になり、2019年度は遅れが生じたが、2020年度に調査地へアクセスできるようになり、遅れを取り戻すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、2020度に開始した野外実験の効果についてモニタリングを継続する。シカ柵内外でカエデ属の当年生実生を相互に移植することによって、本来の実生-土壌微生物叢の組み合わせに比べて、本来とは異なる実生-土壌微生物叢の組み合わせにおいて実生のパフォーマンスが低下するかどうかを調べる。同時に、実生の遺伝構造の解析と野外実験地の環境条件の測定も行い、土壌微生物叢の機能遺伝子組成・実生の遺伝構造・環境要因が、移植した土壌と本来の土壌の実生動態に及ぼす影響を解析し、機能的コア微生物叢の劣化が樹木の実生動態に及ぼす効果を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、実生の遺伝構造解析に多少の遅れが生じたため、実験に関連した物品費に次年度使用額が生じた。実施できなかった実験ついては、2021年度に内容を修正して実施予定であり、当該助成金はその際の物品費として使用する計画である。
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