研究実績の概要 |
近年、シカによる森林の植生衰退が環境保全上の大きな課題になっている。生態系修復のため各地にシカ排除柵が設置されているが、植生回復が十分進まない事例も多く、その原因として植生衰退に伴う土壌機能の低下が植生回復を阻害する負の植物-土壌フィードバック作用が提唱されている。このメカニズムとして土壌中の物質循環の変化が指摘されているが、土壌微生物叢の変化がどのように寄与しているのかは未解明である。そこで、本研究では、シカ柵内外で樹木実生の動態と土壌微生物叢の機能の関係を分析し、植生衰退が土壌の機能的コア微生物叢の改変を通じて生態系修復に及ぼす影響を解明することを目的とした。 2021年度は、2020度に開始した野外実験の効果についてモニタリングを行った。野外実験では、標高1,400 m付近に位置し、植生が同等な6ヶ所を選定し、シカ柵内外でカエデ属およびカバノキ属の当年生実生を相互に移植することによって、機能的コア微生物叢の劣化が樹木の実生動態に及ぼす効果を検証した。また、環境条件も測定し、土壌微生物機能と環境要因の変化が実生動態に及ぼす影響を解析し、機能的コア微生物叢の劣化が樹木の実生動態に及ぼす効果を検証した。 その結果、植生衰退に伴い土壌中の窒素代謝にかかわる機能遺伝子活性と硝酸態窒素量が減少すること、土壌微生物叢の改変に対する樹木実生の応答は共生する菌根菌タイプによって異なることが明らかになった。植生衰退した土壌では、外生菌根菌共生樹木に比べて、硝酸態窒素への依存の大きいアーバスキュラー菌根菌共生樹木の実生の成長率と生存率が低下しており、樹木の機能グループ間の応答の違いにより、植生衰退以前と異なる植生に将来遷移する可能性が示唆された。
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