研究実績の概要 |
増加する集中豪雨が沿岸環境に及ぼす影響を評価するには,豪雨による海域の流動構造の変化を把握する必要があり,そのためには豪雨時に海域に流入する淡水量の推定が必要である。リアルタイムの河川流量データが公表されている場合は少ないため,陸水・水文学の分野で開発されてきた流域水収支モデルが海域への淡水流入量を推定するために有用なツールとなるが,このモデルを用いるには浸透係数等,数多くのパラメータが必要であった.そこで本研究では河川モデルと海洋モデルを結合し,これにより任意の海域において,集中豪雨時の淡水流入量を迅速に評価できるようにした.また,淡水流入が貧酸素化に及ぼす影響を生物化学過程と物理過程に分け,後者に着目することにより,集中豪雨が海域の貧酸素化に及ぼす影響の定量評価を行うことを目的とする. 令和4年度には,集中豪雨時における海域塩分の時系列変化を得るために行った現地観測および豪雨時における貧酸素水塊の変化を調べるための現地観測の結果を,気象条件の季節変化と合わせて解析した.これにより得た海域の水温・塩分により三次元沿岸海洋モデル(FVCOM; Chen et al., 2003, J. Atmos. Ocean Technol.)のパラメータを調整し,またそのモデルを用いて陸域からの淡水流入量を検証した.また最適化したモデルを用い,観測により特定した貧酸素化領域の流動構造および海水交換率が,淡水流入量の変化によりどのように変わるかを調べた.以上の結果を用いて集中豪雨による流動構造の変化が貧酸素化に及ぼす物理的影響を示した.
|