研究課題/領域番号 |
19K12420
|
研究機関 | 札幌市立大学 |
研究代表者 |
矢部 和夫 札幌市立大学, デザイン学部, 専門研究員 (80290683)
|
研究分担者 |
山田 浩之 北海道大学, 農学研究院, 講師 (10374620)
吉田 磨 酪農学園大学, 農食環境学群, 教授 (20448830)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ボッグ / 石狩泥炭地 / 湿原復元 / 温暖化気体 / メタンフラックス / Uリモートセンシング / UAV空撮 / 植生自動分類 |
研究実績の概要 |
1)群落再生:ボッグ種の導入を実験する4つの重点区域では,2021年までに遮水後,ECとpH は,ボッグ種に好適な値を保っており,遮水壁は一定の遮水効果があることを確認できている.しかし泥炭地表面の乾燥はミズゴケ属の良好な生育を抑制していた.新たな試みとして10 cmから30 cm掘り下げ(GL-10cm, GL-20cm, GL-30cm)ミズゴケ属の生育試験を行った.生育面積は全試験区で増加傾向がみられ,特にGL-10㎝,-20㎝で生育面積の広がりが大きかった.しかしながら,5月から8月の乾季にはGL-10cm と-20cmでミズゴケ属は乾燥被害を受け,GL-30cmでは9月からの雨季に冠水被害を受けた. 2)温室効果気体の動態と水環境評価:重点区域内で4測点と区域外に1測点の計5測点でCH4温室効果測定用試料の採取を行い,CO2フラックスは全自動土壌CO2モニタリングシステムでフィールド測定を実施した.分析と測定の結果,重点区域1は,CO2を吸収する傾向がみられたがCH4を放出していた.一方,コントロールとして設置した区域外の測点ではCH4が吸収傾向でCO2が放出傾向であった.地下水の水環境集中観測では,昨年に続きイオンクロマトグラフを用いて各種イオン成分の分析を行った結果,昨年同様に硫酸イオンの値が高かった. 3)環境・群落の時空間モニタリング:土壌環境状態と植生の自動分類手法を開発するにあたり,植物の形状を把握できる程度の地上分解能の高い空撮画像を取得する必要があった.このことから,2021年度は高度30 mの低空空撮を複数回実施し,地上分解能1ピクセル 4 mmのオルソ画像とDSM(数値表層モデル)を作成した.また,検証データとして用いる植生調査も実施した.この画像を用いて,優占植生のほか,土壌環境の分類手法を検討した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)群落再生:本研究の開始から3年間重点区域への導入種の生育状況を追跡した結果,ミズゴケ属以外はおおむね順調に生育していることが確認できた.泥炭地を掘り込んでできた池に溜まった水の水面際に移植したミズゴケ類は良好に生育したので,ミズゴケ属は池の水際に集中して移植すれば,導入に成功する可能性が示された.また,再生地全体の群落種組成調査の結果,埋土種子等から発生したオオイヌノハナヒゲなどの湿原種の植被率が着実に拡大していた. 2)温室効果気体の動態と水環境評価:2021年度は全自動土壌CO2モニタリングシステムと小型チャンバーを用いての観測を行い,分析を進めたが新型コロナウイルスの感染拡大による学内行動制限により当初予定していた季節的な変動の確認をするだけの観測ができなかった.2021年度のデータをもとに気体採取時間や測点の調整や修正を行いつつ,観測を継続する.全自動土壌CO2モニタリングシステムやGCを用いた分析手法に加え,GC-MSを用いたCO2,CH4,およびN2Oの3種温室効果気体同時定量分析も行えるように準備を進めており,より迅速で広範囲な分析・解析が期待できる. 3)環境・群落の時空間モニタリング: 2021年度は,低空空撮により地上分解能(解像度)の高いオルソ画像の作成に成功した.また,スーパーピクセル手法に基づく植生,土壌などのセグメント化,機械学習による画像の分類の試行を行った.この状況から概ね目標を達成できていると考えている.しかし,2022年度は極度な乾季のため,撮影時に植物の枯死が確認され,通常の状態の植生の画像を得ることができなかった.この補足調査を今年度に実施し,そのデータをもとにUAV空撮を用いた植生と環境状態の自動分類とモニタリング手法の確立を行う.
|
今後の研究の推進方策 |
群落再生は再生地全体にボッグの優占種であるヌマガヤ,ワタスゲ,ホロムイスゲ,ミカヅキグサ,ゼンテイカ,コバギボウシを5 * 5 m間隔で格子状に移植し,ボッグの基盤群落の成立を企てる.重点区域には後期導入種を導入し定着状況を追跡する,ミズゴケ属には池の水際に集中的に導入し,定着状況を追跡する. 温室効果気体の動態は,全自動土壌CO2モニタリングシステムや小型チャンバーを用いての温室効果気体フラックス観測,更には現在開発中のGC-MSを用いたCO2,CH4,N2Oの3種温室効果気体同時定量分析システム確立後は2週間から1ヶ月に1度の頻度で現地観測と分析を行い,10月まで観測・分析を継続する.また,温室効果気体の放出量と吸収量の動態は水位の高低や植物種,硫酸イオンの挙動により変動するため,これらもあわせて現地観測を行う.季節的な変動を確認し,各種温室効果気体の放出量や吸収量の動態を定量的に評価する. 環境・群落の時空間モニタリングは,空撮画像の光学指標から群落優占種と分布エリア,微地形,土壌水分等の環境要素を総合的に評価可能にする指標を作成することを目標としている.今年度は,補足的な空撮を8月までに集中的に実施し,それ以降は2021年度に試行した自動分類手法を用いて解析を実施し,その精度を評価することで,先の目標を達成させる. 2021年までの3年間の群落種組成の軌跡を水文化学環境との関係で解析し,環境・群落の時空間モニタリングの動態をもとに再生地の群落の将来予測を試みる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナで必要機材の購入が遅れた。
|