研究課題/領域番号 |
19K12422
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
大濱 武 高知工科大学, 環境理工学群, 教授 (00194267)
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研究分担者 |
林 八寿子 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (20228597)
右手 浩一 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (30176713)
青木 裕一 東北大学, 東北メディカル・メガバンク機構, 助教 (40747599)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プラスチックナノ粒子 / 藻類 / トレボウクシア藻 / アポトーシス / クラミドモナス / 細胞死誘導 / 活性酸素種 / トランスクリプトーム解析 |
研究実績の概要 |
ナノ粒子が細胞死を迅速に引き起こせる藻の種類とそうでない種を同定し、それぞれに共通した細胞構造的あるいは生化学的な共通点を抽出することで、ナノ粒子の細胞死誘導メカニズムを探ろうとした。イソブチルシアノアクリレートポリマーの粒子で粒径が30nm [iBCA-NP(30nm)]のものを合成し、濃度100 ppmで24時間暴露することにより感受性の検証を行なった。この結果、緑藻以外の藻では、検証したすべての藻(20種)について24時間以内に70%以上の細胞死誘導が認められた。一方、緑藻のTrebouxiophyceaeに属する8種では、24時間暴露でも細胞死率がすべて10%以下であった。他方、Chlorophyceaeに属する11種では、2種を除いて24時間以内に70%以上の細胞死誘導が認められた。 細胞死誘導率が短時間に細胞70%を超える緑藻では、ナノ粒子暴露によりプロトプラスト様の球形細胞の出現が顕著に認められた。また、これらの細胞を透過型電子顕微鏡で観察すると細胞壁には、明瞭で大規模な損傷が認めたれた。一方、細胞死誘導がほとんど認められないクロレラ等では、細胞壁の最外層にごくわずかな剥離が認められるのみであった。 緑藻でない藻では、外被(細胞壁)はすべての種でシームレスな構造をとっておらず、30nm程度のナノ粒子が通過できるような孔や溝を持っていた。この事から、ナノ粒子が細胞死を引き起こすためには、細胞壁を通過して、その内部に侵入できることが必要条件であり、ナノ粒子は細胞質膜上の様々なタンパクと弱い特異性で結合することで、その機能を損傷するというモデルを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでは、イソブチルシアノアクリレートポリマーの粒子で粒径が30nm [iBCA-NP(30nm)]のものを用いて、様々な藻に対する効果を検証してきた。この粒子は製造時にナノ粒子の凝集を防ぐために2種類の界面活性剤を含んでおり、ナノ粒子表面にも吸着されていると考えられる。そのため、界面活性剤を生物毒性がないと思われるデキストランに置き換えてナノ粒子を作成した。デキストランを用いて作られたイソブチルシアノアクリレートポリマーの粒径の平均は180 nmであった[iBCA-NP(180nm)]. 100 ppm濃度のiBCA-NP(30nm)とiBCA-NP(180nm)をChlorophyceae に属する11種類、Trebouxiophyceaeに属する8種類、Bacillariophyceaeに属する4種類, Prymnesiophyceaeに属する4種類、Raphidophyceae に属する種類、Dinophyceae に属する6種類、Chryptophyceaeに属する3種類に暴露させてその細胞死率について検証した。その結果、iBCA-NP(30nm)とiBCA-NP(180nm)の暴露結果は、経時時間的な細胞死誘導率での差を除いては一致していた。24時間暴露で、Trebouxiophyceae に属する藻で、細胞死誘導された種はなく、Chlorophyceaeに属する藻のおよそ70%では細胞死が観察された。また、その他の緑藻でない藻については、すべて顕著な細胞死が認められた。この結果から、イソブチルシアノアクリレートポリマーの粒子であれば、藻の細胞死誘導に粒子表面に付着している界面活性剤および粒径の違いは本質的な影響を与えないことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの単細胞緑藻のクラミドモナス を用いたiBCA-NPの暴露実験では、遊泳軌道の異常、細胞壁の分解、活性酸素種の発生、液胞の膨潤、活性酸素種の発生が顕著に観察されている。ナノ粒子が細胞に衝突することにより、どのようにして、このような異常が生じ最終的には細胞死にまで至るのかを知る有効な手段として、トランスクリプトーム解析がある。トリパンブルーによる染色率0%, 5%程度、30%程度、55%程度、65%程度の5つのステージにある細胞から全mRNAを抽出してcDNAに変換後、次世代シークエンサーを用いた75bp ペアエンド解析により、各ステージの遺伝子発現データを取得する。これらのデータ比較から、ナノ粒子暴露により発現が向上される遺伝子、抑制される遺伝子を抽出する。特に暴露初期に遺伝子発現が上昇する遺伝子群に注目して、どのような代謝系路の活性化が細胞死誘導の引き金となっているのかを探る。最近では、多細胞動物、陸上植物に限らずクラミドモナスのような真核単細胞生物でも、Programmed Cell Death (PCD)反応の存在が知られている。また、クラミドモナスの ゲノムにはPCDにおいて中心的な役割を持つMetacaspaseI, Metacaspase II, BAX, Endo G遺伝子がコードされている事が分かっている。更に、過酸化酸素やMenadione処理などの過酸化酸素種が細胞内に誘発されるストレスにおいて、nucleosome 単位で切断されたゲノムDNAが生じることも知られている。この事から、過酸化酸素種が生じるiBCA-NP爆露においても、PCD反応が誘発されている可能性が強い。トランスクリプトーム解析により、ナノ粒子暴露の細胞死メカニズムの分子機構を明らにして行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
RNA-seq解析が今年度は実施されなかった事およびiBCA以外の他のモノマーを用いたナノ粒子合成が実施されなかった事による。このことで、予定していた試薬代が支出されなかった為。
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