研究課題/領域番号 |
19K12422
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
大濱 武 高知工科大学, 環境理工学群, 教授 (00194267)
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研究分担者 |
林 八寿子 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (20228597)
右手 浩一 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (30176713)
青木 裕一 東北大学, 東北メディカル・メガバンク機構, 助教 (40747599)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 樹脂製ナノ粒子 / 細胞死誘導 / 遺伝子発現変化 / クラミドモナス / 活性酸素種 |
研究実績の概要 |
イソブチルシアノアクリレートナノ粒子(iBCA-NP)をクラミドモナスに100 ppmで暴露させ、細胞死誘導率が凡そ2%, 15%, 30%に達した細胞からmRNAを抽出して、RNA-seq解析を実施した。その結果、細胞死誘導率が凡そ2%の段階から30%に至るまでの間、一貫してHSP遺伝子やredoxに関与する酵素をコードする遺伝子がコントロール(ナノ粒子液に含まれる界面活性剤のみによる暴露)に比べて、50倍から1000倍程度の発現上昇が観察された。これは、ナノ粒子暴露による活性酸素種(ROS)の発生による生理的環境の異常に対応した遺伝子発現の変化であると考えられる。 またiBCA-NP暴露により、栄養増殖をしている細胞の細胞壁の消化が起こり、細胞がプロトプラスト化することが観察されているので、細胞壁溶解酵素をコードする遺伝子に関しても、その発現変化に注目した。その結果、通常のLife cycleで顕著な発現が見られない細胞壁溶解酵素の一つ、Cre13.g605200遺伝子の発現が100倍程度、上昇していることが明らかになった。また、この遺伝子のtag挿入突然変異体を入手して、ナノ粒子暴露に対する感受性を検証した結果、野生型の細胞よりも顕著に遅い細胞死誘導が観察された。これらの事から、ナノ粒子暴露におけるプロトプラスト出現に関与している細胞壁溶解酵素は、Cre13.g605200遺伝子であることが明らかになった。 細胞死誘導が起こった細胞からゲノムDNAを調整し、電気泳動によりその状態を調べた。その結果、スメア状に分解されたDNAの中にクロモソーム単位で分解されたDNA断片が観察された。これはナノ粒子暴露による細胞死は、爆発的に生じたROSによるネクローシスを主として細胞死であるが、ROSの発生が限定的である暴露初期にはPCDが誘導された事を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通りに遺伝子発現解析が実行され、ナノ粒子暴露による遺伝子発現の変化特性を明らかにすることができた。その結果、細胞壁溶解酵素遺伝子の1つが活性酸素種によるストレスに応答して発現誘導されることを明らかにした。 また、iBCA以外のシアノアクリレートモノマーを用いたナノ粒子についても、合成に成功している。また、これまで使用されていた陰イオン性の界面活性剤を使用せず、中性界面活性剤のみを用いた30-100nm直径の粒子の合成にも成功した。
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今後の研究の推進方策 |
多細胞動物のPCDにおいてカスパーゼが正常な細胞機能に必須なタンパクを分解するキーとなるタンパク分解酵素であることは良く研究されている。陸上植物においては、特異性が異なるタンパク分解酵素であるメタカスパーゼとカスパーゼと同じ特異性を持つ2種のタンパク分解酵素が関与していることが知られている。 クラミドモナスにおいては、メタカスパーゼ TypeI とType IIをコードする遺伝子が1個ずつコードされている。また、BCLなどのPCD関連酵素もコードされてる。メナジオンや過酸化水素暴露では、明瞭をクロモソーム単位のDNA断片が検出されるので、陸上植物などと同様に、PCD反応経路の存在に疑いはない。しかし、それに関与するタンパク分解酵素については特定されていない。RNA-seqで得られたデータにより、候補遺伝子を絞り込み、その突然変異体を解析することでクラミドモナスにおける細胞死誘導経路を明らかにしたい。 クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)と分子系統学的にも近縁種であることが証明されているChlamydomonas asymmetricaはiBCA-NP暴露に対して明瞭な耐性を示す。ナノ粒子暴露においても、遊泳パターンに全く変化が見られない。 iBCA-NP暴露において、全く異なる反応を示す近縁種において、細胞壁溶解酵素分泌の有無が感受性と耐性を決定している可能性について検証する。 新たに合成したシアノアクリレートナノ粒子は、iBCA-NPとは異なる特性を持つ可能性が高い。このような特性の違いが、ナノ粒子構造の表面の電荷の偏りと密接に関連している可能性がある。特にタンパク吸着と電荷との関連性に注目をして、これを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症の蔓延により、各大学における実験研究が長期に渡り制限を受けたために、予定していた実験の一部を繰り延べた為に差が生じた。また、RNA-seq解析の外注費の値下がり及び、統計的解析を外注とせず機関内で行った為に予定よりも、安い費用で必要なデータを取得することができたので。
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