研究実績の概要 |
空間情報付きの標識再捕獲調査と同時に狩猟等による死亡個体の回収が行われる状況下で個体密度や捕殺率を推定するspatially-explicit capture-recapture-recoveryモデルを構築した。知床半島において2018年に実施されたヒグマの糞サンプルに基づくDNA標識再捕獲データおよび狩猟や有害鳥獣駆除などによる捕殺個体の一覧を収集し、57個体分、54の標識再捕獲記録と30頭の捕殺個体情報を得た。このデータに対してspatially-explicit capture-recapture-recoveryモデルを適用し、周辺尤度最大化法によりパラメータ推定を行った。0.052頭/km2 (95%CI: 0.033, 0.080)という推定が得られた。そのうち、オスの密度は0.022頭/km2 (95%CI: 0.012, 0.033)、メスは0.030頭/km2 (95%CI: 0.013, 0.058)であり、ややメスの比率が高いという結果が得られた。また、ホームレンジサイズに対応するパラメータσはオスで4.82 (95%CI: 3.91, 5.95)、メスで4.00 (95%CI: 3.05, 5.25)であり、オスのホームレンジがより大きいという一般的な傾向と一致した。そして、捕殺率はオスで0.36、メスで0.19であった。今回使用したサンプルはクマが出没しやすい集落や農地周辺に偏っているため、半島全体の捕殺率と比較すると高い値が推定されると考えられる。これらの結果から、知床半島においてはホームレンジの大きなオスがより人間と軋轢を起こしやすい状況にあり、それに伴う捕殺リスクも高いという状況が明らかとなった。
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