過年度開発した移流拡散方程式に基づく空間標識再捕獲モデルを、2019年、2020年に知床半島で実施されたヒグマのDNA標識再捕獲データのフルデータ(ヘアトラップ、糞塊調査、ヒグマ出没対応中のサンプル、捕殺個体回収サンプル)に適用し、個体密度・捕殺リスク・景観連結性・場所への執着度合いの空間分布を同時に推定した。その結果、いずれの年においても人為的土地被覆からの距離が遠く、サケマス遡上河川からの距離が近い場所でヒグマは高密度であることが明らかとなった。全体としては2019年で567個体(95%信頼区間:473-661個体)、2020年で486個体(95%信頼区間:416-555個体)であった。景観連結性に影響を及ぼした要因は年により異なったが、傾斜角や人為的土地被覆に対するネガティブな効果が検出された。また、捕殺リスクと場所への執着度合いはそれぞれ人為的土地利用からの距離がネガティブ・ポジティブな効果をもたらすことが分かった。 研究機関全体を通して、動物行動のメカニズムと整合的なホームレンジ形成のプロセスモデルを考案し、標識再捕獲データから個体密度と同時に推定するという新規性の高い統計モデリングのアプローチを開発し、実データから現実的な推定が得られることが分かった。この手法はヒグマに限らない野生動物管理に広く応用可能であり、ゾーニングの効果を評価する上でとても有効であると考えられる。得られた推定値は、知床半島におけるヒグマ管理計画に反映された。
|