研究課題/領域番号 |
19K12430
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
黒田 桂菜 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 准教授 (70708023)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 海産バイオマス / メタン発酵残渣 / 微量金属 / ノリの色落ち / 栄養塩の偏在 |
研究実績の概要 |
大都市が隣接する閉鎖性海域である大阪湾では,過栄養状態に起因する緑藻類の爆発的な増殖によって海域環境に深刻なダメージが起きているとともに,南西部では本来黒色であるノリが茶褐色になるノリの色落ちが生じるなど貧栄養状態となり,いわゆる「栄養塩の偏在」が生じている。 本研究では,海産バイオマス由来のメタン発酵残渣には,ノリの色回復が有効とされる窒素やリンの他に微量金属や重金属が含まれていることに着目し,室内培養実験および実海域を模擬した水槽実験を通して,微量金属がノリの色回復に与える効果と重金属リスクを検証し,海産バイオマス由来のメタン発酵残渣の海域利用の有効性を明らかにする。 本研究の目的は,海産バイオマス由来のメタン発酵残渣の海域利用の有効性を明らかにすることである。そのため,海産バイオマス由来のメタン発酵残渣に含まれる微量金属・重金属が色落ちノリの回復に及ぼす効果・リスクについて実海域を模擬した実験を通して明らかにする。さらに,未活用の海産・陸産バイオマスを複合的に組み合わせ,色落ちノリの回復に向けた最大の効果と最小のリスクが見込める発酵残渣の最適条件を明らかにする。 2019年度は,主に実験環境の整備を重点的に進めた。実海域を模擬した水槽実験の実験方法の確立に向けて,実海域同様ノリ網を張った状態を再現した培養方法を試行した。地元漁業者の協力を得ながら検証中の項目(通気量,海水交換等)もあるが,様々な培養条件を揃えられる実験環境を整えつつある。次に,ノリ漁期外の時期における実験方法として,浸漬実験による色回復効果の検証を行った。人工海水に比べ発酵残渣(アオサおよび野菜由来)による顕著な色調回復が確認できた。通気がないことによる短所(色がまだらになるなど)があるものの,年間を通した培養実験が可能となる実験環境を整えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は,浸漬実験による色回復効果の検証によって,以前の成果である小型フラスコ内の培養実験同様,メタン発酵残渣による顕著な色調回復を確認できた。これにより,メタン発酵残渣の有用性を改めて確認できた。ただし,以前の成果と異なり,アオサ由来の残渣と野菜由来の残渣に顕著な違いが見られなかったため,残渣成分との関連性についてさらなる考察が必要である。浸漬実験および実海域を模擬した水槽実験によって年間を通して実施可能な実験環境を整えることができた。さらに,アオサ由来の発酵残渣をメタン発酵に循環利用することで,メタンガスが約8%多く発生することが明らかになった。本成果は,色調回復同様に発酵残渣の付加価値向上に寄与する成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,浸漬実験を通して,メタン発酵残渣による色調回復のメカニズムについて考察を進める。具体的には,発酵残渣の成分と栄養塩の吸収量,ノリの色調の関連を定量的に詳しく調べる。さらに,浸漬実験を通して得られた条件を水槽実験に反映し,水温・光環境・栄養塩・重金属リスクの観点から培養条件の最適化に向けた実験的知見を蓄積する。水槽実験については,実験の効率化を鑑みて,当初予定していた規模を縮小し,より多くのサンプル数を確保できる体制を整える予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
紫外可視分光光度計を当初の予定金額より40%近く安い金額で購入できたこと,当初予定していた水槽の規模を縮小し,より多くのサンプル数を確保する方針に変更したことにより,設備費に使用額の差異が生じた。また,学会発表を地元開催のものにしたため,旅費の差異が生じた。2019年度の成果を踏まえ,2020年度はより多くの実験回数が予想されるため,設備費および分析費用に使用する予定である。
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