研究課題/領域番号 |
19K12437
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
冨樫 聡 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (00740010)
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研究分担者 |
柴崎 直明 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (70400588)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地下水 / 未利用熱 / 地中熱 / 地下空間 / 模型実験 / 再生可能エネルギー / 蒸発潜熱 / 冷熱利用 |
研究実績の概要 |
3つの研究テーマ「①貯留水の低温化メカニズムを解明」,「②冷熱エネルギー潜在量・利用可能量評価」,「③貯留水の再生可能熱源への転換技術開発」に関して,次のとおりの研究実績が得られた。 【テーマ①】地下空間の温度,湿度,貯留水の深度別水温,貯留水深等の連続モニタリングを実施した。モニタリング対象の地下空間では2020年6月から貯留水を熱源利用するイチゴハウス栽培を開始した。夏季のイチゴハウス栽培で冷熱利用(熱交換)した後に,温度上昇した水を地下空間へ放出した。これに伴い,浅部(水面から15mまで)の貯留水の温度は5~8℃上昇した。一方,深部(水面から30m以深)の温度は約9~10℃のままで変化はみられなかった。 【テーマ②】エネルギー潜在量・利用可能量を評価する際に必要となる大谷石の熱物性値の推定にあたり,原位置試験と数値解析を組み合わせた手法を提案し,その妥当性を検証した。検証の結果,複数地点で推定した熱物性値(熱拡散率)と,同地点で採取した試料の分析結果はよく一致した。これにより,提案した熱物性推定手法の妥当性が確認できた。 【テーマ③】貯留水の低温化促進を図るため,地下空間に送風して蒸発潜熱を利用する原位置低温化実験を実施した。原位置実験は2020年3月と6月の2度実施した。3月に実施した実験では貯留水の冷却効果が認められたが,6月に実施した2回目の実験では温度変化は確認できなかった。これは,送風した空気の湿度が原因と考えられる。これらの実験結果は,効果的な貯留水の冷却技術の確立に役立つ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3つの研究テーマ「①貯留水の低温化メカニズムを解明」,「②冷熱エネルギー潜在量・利用可能量評価」,「③貯留水の再生可能熱源への転換技術開発」に関して,次のとおり進捗しており,当初計画に対しておおむね順調に進展している。 【テーマ①】冷熱利用事業(イチゴハウス栽培)で用いる地下空間を実験サイトとして,モニタリング体制を構築し,システム運転時の地下空間の温度変化を把握した。また,様々な影響を受ける現地データからは把握が難しかった貯留水の低温化メカニズムについて,室内実験と数値モデルにより低温化現象に対する理解を深めた。 【テーマ②】対象地域の複数地点で実施した熱物性調査結果を反映して,地下空間を考慮した数値モデリングを実施した。構築した数値モデルを用いて,低温情報がいつまで保持されるか(低温保持期間)の推定を実施予定である。 【テーマ③】貯留水低温化促進を図るため,地下空間に送風して蒸発潜熱を利用する原位置低温化実験を実施した。実験の結果,地下空間へ送る空気(外気)の湿度が,貯留水の低温化に強く影響を及ぼす可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
3つの研究テーマ「①貯留水の低温化メカニズムを解明」,「②冷熱エネルギー潜在量・利用可能量評価」,「③貯留水の再生可能熱源への転換技術開発」に関して,今後の研究の推進方策を次のとおり考えている。 【テーマ①】室内実験で貯留水の低温化を再現できたことから,これらの実験結果を再現可能な数学モデルならびに数値解析モデルを開発した。おおまかな再現は図れたものの,数学モデルおよび数値解析モデル共に精度向上が必要な状況にある。そこで,様々な地下空間環境(地下空間の水没状況,貯留水温度,送風量や送風連続時間等)が低温化に与える影響を定量的に評価可能なモデルとなるように改良に努める。 【テーマ②】地下空間を考慮した広域3次元地下水流動熱輸送解析モデルを構築し,大谷地域における非定常熱移動解析を実施する。これにより低温保持期間を推定し,事業の持続可能性を検討する。 【テーマ③】実証実験サイトにおいて実施した原位置送風実験データを解析して,人為的に低温化促進を図る上で必要な条件(最適な送風時期,送風量等)を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症被害の拡大を受けて,予定していた国際会議が中止・延期等となり,参加できなかった。生じた次年度使用額については,論文投稿に係る費用として利用予定である。
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