研究課題/領域番号 |
19K12465
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
伊達 浩憲 龍谷大学, 経済学部, 教授 (30278501)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 潜在能力アプローチ / 生態系サービス / 生物多様性 / ウェルビーイング / 東日本大震災 / エコトーン |
研究実績の概要 |
2020年度に岩手県および滋賀県において予定していた実地調査やヒアリング調査、アンケート調査は、新型コロナウィルス感染拡大、政府の緊急事態宣言の発出、所属機関の研究ガイドライン等の影響により、実施できなかったため、下記のような研究を行った。 20年度の前半期は、東日本大震災の被災地・岩手県陸前高田市において自然再生活動を行う2つの市民団体への聞き取り調査(2019年度に実施)の結果を現地報告としてとりまとめ、学術雑誌(東日本大震災特集号)に掲載した。被災者自身の自然再生活動(コミットメント)が、震災で傷ついた身近な自然の風景を再生し、その中に自身を置き直そうとする活動であったし、「場所に刻まれた人びとの履歴」を掘り起こし、「場所と人びととをつなぎ直す活動」(レジリエンス)であったと結論づけた。 20年度の後半期には、潜在能力アプローチによる「自然環境と人間との相互作用」の解明に関して、欧米の環境経済学や生態学・環境学の研究動向をフォローした上で、(1)生態系サービス享受の概念的フレームワーク、(2)東日本大震災とその後の復興過程における自然環境の劣化、(3)被災者(特に子ども)の生態系サービス享受能力の減退、(4)被災者自身による自然再生活動の含意(コミットメントとレジリエンス)、(5) 復興政策のあり方について、岩手県陸前高田市の事例を中心に研究ノートを執筆し、大学紀要(英文)に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
20年度に岩手県・滋賀県において予定していた実地調査やヒアリング調査、アンケート調査は、新型コロナ感染拡大、政府の緊急事態宣言の発出、所属機関の研究ガイドライン等の影響により、実施できなかった。オンラインでのヒアリング調査も模索したが、本研究の調査対象が高齢者や小・中学生であるため、感染リスクがあり、実施が極めて困難であったため取りやめた。 代替的な研究方針として、20年度後半期は、下記のような国際的議論動向の整理に注力した。近年、「生物多様性・生態系サービスの政府間科学-政策プラットフォーム」(IPBES)に集う研究者たちの議論においては、地域住民の「自然の多元的な価値構造」(内在的価値、道具的価値、関係的価値)や知識体系の役割を再評価する研究が精力的に進められており、IPBESの概念的フレームワークについても、従来のミレニアム生態系評価時の「生態系サービス」の概念は、「自然のもたらすもの」(Nature's Contribution to People: NCP)にとって代わられようとしている。 20年度後半期から今年度にかけては、このような国際的議論状況を整理した上で、「人が価値を置く理由のある生」を扱いうる潜在能力アプローチのメリットを活かしつつ、本研究の理論的フレームワークを多元的に深化させ、その応用的展開の可能性を追求している。
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今後の研究の推進方策 |
21年度の後半期には、高齢者や小中学生向け「生態系サービス享受能力に関する調査票」を作成し、後半期に、岩手県・滋賀県において現地ヒアリング調査やアンケート調査を実施したい。また、得られたデータを分析し、2地域間で比較を行いたい。 新型コロナ感染拡大、政府の緊急事態宣言の発出の影響により実施が困難だった場合には、オンラインでのヒアリングや郵送でのアンケート調査を検討する。先方の都合などにより実施が不可能となった場合には、これまでに入手した既存のデータセットで補完することとしたい。また、研究期間の延長も視野に入れて再検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大と、それにともなう政府の緊急事態宣言発出により、2020年4月以降、岩手県陸前高田市の住民への聞き取り調査などがほとんど実施できず、延期せざを得ない状況になったためである。
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